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言葉の玉手箱

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連載:言葉の玉手箱 第32 回

英語に限らず外国語を学習していると、言葉の世界の奥深さに気付かされます。古来の日本人は言霊(ことだま)と評して、言葉には霊が宿り、見えざる力を働かすのだと考えました。使い慣れた短いフレーズの中にもコミュニケーションを左右するほどの力があるのです。

毎回ご好評をいただいているこのコーナーでは、テンプル大学ジャパンの川手 ミヤジェイエフスカ 恩先生が、異文化間コミュニケーションにおける言葉の使い方の重要性に焦点をあて、興味深く解説してくださいます。言葉の世界の面白さをお楽しみください。

>Dr.川手 ミヤジェイエフスカ 恩(めぐみ) Dr.川手 ミヤジェイエフスカ 恩(めぐみ)
テンプル大学ジャパンキャンパス教養学部
(Megumi Kawate-Mierzejewska, Ed.D., Temple University, Japan Campus)
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2000年より、ETS公認コンサルタントを務めてきた。
専門分野:中間言語語用論(Interlanguage Pragmatics)

英語母語話者にとっての“at least”

今回は、英語と日本語の表現方法の微妙な違いについて考えてみる。日本語には、独特の表現があり(例えば、「まあしょうがない」とか「まあ、いっか」というような時に使われる「まあ」)、 英語にするのが難しいものもあれば、直訳できるような表現があるにもかかわらず、英語とは含意が異なる表現もあるようだ。そこで今回は日本語の「少なくとも」(lit. at least)という表現を取り上げて考えてみたい。以下、松村貴子氏(仮名)のエピソードを紹介しながら “at least”の使い方を考えてみる。

今回のエピソードは、ある研究団体の小さな年次大会の運営にまつわるものだ。まず、希望者が研究発表するまでの過程を簡単に説明すると、発表希望者は締切日までに必要事項を書き込み学会に申し込む。申し込みを締め切った後、学会査読審査委員長は、何人もの査読者をたてて発表申し込み原稿の審査をしてもらい、結果をまとめて発表希望者に採否を知らせる。

さて、今回の“at least”の使い方は、その採否を松村氏が受け取った時のことだ。松村氏は、審査委員長からのメールの “Hello, it is with great pleasure that I can inform you of your acceptance to present at the …”というメッセージを見て、まず感謝のメッセージを書き、その後、そのメールには発表者の氏名も発表のタイトルも書かれていなかったため、追伸として“It would be nice if you could at least provide a title of presentation when sending out the acceptance letter, I would say”と言うメッセージを送ったという(ちなみに松村氏は某学会大会委員長などを歴任し、かなりの経験を持っている)。ところが、その日のうちに全く予期していなかった返答を審査委員長から貰ったらしい。それは以下のような皮肉だったようだ “... I look forward to leaving THE organization (as an active member) after this conference. Your inconsiderate comment, Takako, has helped greatly. Thank you.”

どうやら追伸で送った文が誤解を招いたようだ。アメリカ英語母語話者によれば、母語話者は追伸文を「なにもできなくても、採否通知を送る時は少なくとも(せめて)発表のタイトルくらいは入れた方がいいんじゃない?」というように解釈をするのが一般的らしい。松村氏はただ単に「採否通知を送る時は、他の情報はなくとも少なくとも発表のタイトルくらいは入れた方がいいかも・・・」と言うくらいの気持ちでいたらしい。

以上、“at least”という表現は誤解を生みやすいようなので、気をつけて使おう。もちろん状況によって異なる解釈がなされると考えるが、いずれにしても注意を払っておいた方がよさそうだ。

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