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言葉の玉手箱

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英語に限らず外国語を学習していると、言葉の世界の奥深さに気付かされます。古来の日本人は言霊(ことだま)と評して、言葉には霊が宿り、見えざる力を働かすのだと考えました。使い慣れた短いフレーズの中にもコミュニケーションを左右するほどの力があるのです。

毎回ご好評をいただいているこのコーナーでは、テンプル大学ジャパンの川手 ミヤジェイエフスカ 恩先生が、異文化間コミュニケーションにおける言葉の使い方の重要性に焦点をあて、興味深く解説してくださいます。言葉の世界の面白さをお楽しみください。

>Dr.川手 ミヤジェイエフスカ 恩(めぐみ) Dr.川手 ミヤジェイエフスカ 恩(めぐみ)
テンプル大学ジャパンキャンパス教養学部
(Megumi Kawate-Mierzejewska, Ed.D., Temple University, Japan Campus)
2000年より、ETS公認コンサルタントを務めてきた。
専門分野:中間言語語用論(Interlanguage Pragmatics)

依頼をする時の“Please (プリーズ)”(その1)

英語を習い始めると、すぐにでてくるのが依頼をする時の“please”だ。そしてこの表現は、簡単そうで意外と難しいのではないだろうか。そこで、今回は、この“please”が母語教育や外国語としての英語教育においてどのように紹介されているのかを考えてみたい。

まず、母語教育における“please”だが、北米では子供が最初に教わる依頼の表現らしい。家族が学校に上がる前の子供に教える表現のようだ。筆者の記憶では、知り合いの年配者が“Pass me the salt”という表現を使った3歳のお孫さんに“Please”と言いながらお塩の入れ物を手にとった。すると、その3歳のお孫さんは“Please pass me the salt.”と言い、お塩を彼女から渡してもらったというものだ。このようにして、子供は“Please”の使い方を習得していくようだ。
つまり、この“Please”は、子供が他人とのやりとりにおいて見せる子供なりの配慮なのかもしれない。

次に外国語教育における“please”の位置だが、これは英語を習い始めて一番先にでてくる依頼表現として紹介されているようだ。更に、この“please”をつけると依頼が丁寧になるので絶対に必要だというようなことを教えている英語教育もあるようだ。ここで、面白いエピソードを紹介しよう。

ヨーロッパのある国の観光局に行き、順番を待って並んでいる時に、そこの局員が英語を母語としないアジア人観光客たちに“please”をつけて話すように注意を促しているのを聞いたことがある。ことのはじまりは、まず列の先頭にいた北米英語母語話者が“Can you give us some information about …?”と言った時はスムーズに事が運び観光局員は地図を見せながら何か説明していた。しかし、次にアジア人らしき若者たちが同じことを言ったら観光局員は、前述の年配者のように、地図を手に取りそれをかざして“please”といった。つまり“please”と言わないと説明しないというジェスチャーをみせたのだ。そして、そのあとにいたアジア人は“I was wondering if you could give me some information about ...”というような表現を使って依頼をした。そうしたら、今度は“please”、そして母語で「“please”をつけろって言ってるのに聞いてないの?」というようなことを言ってまた“please”と言った。「それを言わないなら君たちのサポートはできないよ。勝手にそのあたりにあるパンフレットでも持っていけば」と言わんばかりのけんまくであった。依頼者はそこで、“Excuse me?”と言った。そうしたら観光局員は、もう一回 “Ple:::::::::se”(give me a breakとでも言わんばかりに)を繰り返した。

以上からわかるように、“Please”という表現はもしかしたら英語を母語としない話者同士が話す時は、とても大切な表現なのかもしれない。つまり、英語母語話者が英語を母語としない話者と話す時に言葉の使い方を調整するのと同様、英語を母語としない話者も非母語話者同士で話す時は臨機応変に外国語の言葉の使い方を調整しなくてはならないのかもしれない。次回は、この“Please”が生みだす誤解について考えてみる。

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