TOEFL Mail Magazine Vol.55
INDEX
今月号目次
TOEFL®の変遷と意味
SELHi校の試行錯誤
HASSHIN!耳よりエクスプレス!
TOEFL® iBTを受けてみよう
TOEFL® iBT全国津々浦々
e-Language in Action
言葉の玉手箱
メッセージ

オフィシャルサイトへ
TOEFLテストトップページ
TOEFLテスト教材ショップ
TOEFL ITP テスト
Criterion

TOEFL WEB MAGAZINEへ

SELHiの試行錯誤


それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、Can-Doグレードの開発など、特徴的な取組で成功した福岡県香住丘高等学校から、永末温子先生にご寄稿を頂きました。


香住丘高等学校SELHi研究をふり返って
香住丘高等学校教諭 永末 温子
永末先生 プロフィール

永末温子(ながすえ はるこ)氏 永末温子(ながすえ はるこ)
北九州市立大学外国語学部米英学科卒業。教職歴25年。平成6年度文部科学省「中等教員派遣事業」にてオーストラリアヴィクトリア州に派遣され、日本語教育に携わる。平成15年度〜平成17年度文部科学省スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)第2期校指定校・福岡県立香住丘高等学校における研究主任・教科主任。


1. 10年+3年間のSELHi研究の歩み
香住丘高等学校のSELHiの取組 本校は、1984年開校時において福岡県内で初めて英語コースを設置、その後1994年英語科に改組され、より専門性の高い英語教育の研究と推進に寄与してきた。平成15年度文部科学省からスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)の研究指定を受けることになり、研究開発実施計画を策定する際、校内では研究対象クラスを英語科に限定するのか、普通科まで広げるのかの議論がなされ、それまでの10年の英語科の取り組みを研究の軸とし、3年間の研究期間で改善すべき点を見いだしながら、さらに実践研究を推進することで教員の意見が一致した。
 英語科では、SELHi研究以前より各学年の到達指標が確立されており、専門科目「英語」のシラバスも、研究指定前より徐々に改善が加えられてきていた。英語科では、特にクラス担任同士が指導方法や生徒指導について意見を交換することが多く、学科の運営に関して協力体制が確立しており、SELHi研究においては、3人の英語科担任(永嶋典子教諭(英語学科主任)・梅野惠子教諭・永末(教科主任))を中心とする研究体制をとることになった。また、英語科だけでなく普通科の指導においても、教員の連携がなされており、開校以来、年度末には各科目の指導事跡をまとめ、次年度の指導に役立てるシステムを確立しており、指導方法・教材の共有がなされてきた。また英語科における専門科目「英語」の指導については、英語科のクラス担任が年度当初の教科会議で、年間の指導方針やシラバスを提示し、共に教科指導にあたるすべての英語科教員の間で、教科指導において連携が密にとれるようになっている。
 研究開始当初から長期的展望を持って研究に着手したが、3年間の研究指定期間を振り返って、成果を残して終えることができた現在改めて思うのは、研究指定以前の10年間の英語科全体の地道な指導実践の重みである。6月の文部科学省主催のSELHi連絡協議会で、本校のSELHi研究指定終了後の取り組みについて報告した際、帰国子女もほとんどいない公立高校で、どのようにすれば入学後それほど英語力を伸ばせるのか(参考:3年卒業時英語科クラスの3分の1が英検準1級獲得、TOEICクラス平均691点、GTEC TOTALクラス平均693点)という質問をいただいた。その時の私の返答は、質問者の満足のいくものでなかったようだったが、授業の研究実践の積み重ねの長さと教員間の連携が、SELHi研究によってさらに指導改善や新たなカリキュラム開発につながり、生徒の英語力を効率的に向上させることができたというのが、今導かれる結論である。

資料1: 各学年における指導と到達目標

2. スピーキング・ライティング指導研究から4技能統合型指導研究への発展
 本研究は、「英語のスピーキング・ライティング能力の向上に係る指導方法及び評価方法の研究開発−考える力の育成と英語による表現方法の向上」を研究開発課題として、取り組んだ。総合的な学力としての伸張を図り、その中で特に英語のスピーキング・ライティング能力の向上に係る指導方法を研究し、現代社会に対する生徒の問題意識を喚起し、自らの考えを表現し、積極的にコミュニケーションを図る能力と態度を身につけることを意図するものであった。Outputとしてのスピーキング・ライティング能力の統合を図る指導・実践と共に、Inputとしてのリーディング・リスニング能力の向上の指導・実践を行い、各学年の到達指標に基づき、1年次よりリーディング・リスニング・ライティング・スピーキングの力を同時に育成する4技能統合型指導を確立した。この指導は、content-basedであり、skill developmentを目指すものである。題材として取り扱うテーマ・背景について興味・関心を高め、スキーマを活性化しつつ、知識の習得を図り、授業等における日常活動を通じて、思考やそれを表現するための段階的指導を確立した。特に多技能の連携を図り、コンテントを深化させる指導実践を行った。

Do:4技能統合型指導について

3. 4技能統合型シラバスの作成
 研究3年目に当たる昨年、英語科1年の担任となった時、新入生を見て愕然としたことを今でも思い出す。現行教育課程生の特徴のひとつとして、中学時の基礎基本定着の不徹底や語彙力不足が顕著であり、今までどおりの英語科での指導方法が役に立たない現実に直面することになった。すでに研究のまとめに入ろうとしていた時、これまでの2年間のSELHi研究を根本的に見直すことが急務となり、1年次から2年次にかけてより緻密な段階的指導を策定しなければならなくなった。この時ほど研究主任として、研究をまとめる難しさを感じたことなく、新たな指導方法の開発に着手する覚悟をしたものだった。そこで、技能統合型指導をより緻密に行うために、4技能統合型シラバスを作成することにした。このシラバスによって、content-basedで4技能をどのようにそれぞれの段階で指導するのかが明示され、必要なインプット量を確保するために、家庭学習をどのように課すべきかがわかるようになった。3年間を見通したより綿密な指導計画を策定することができ、2年間の研究実績を生かしながら、さらに研究を発展させることができた。
SELHi授業の様子平成16年度入学生から、現行教育課程生(新教育課程生)であるが、急速に変化しつつある生徒の学力状況にもかかわらず、SELHi研究指定期間および期間後も、外部テストの結果等から判断すると本校生徒の英語力は着実に伸びており、入学後の伸張度も大きくなっている。これはこのシラバス開発にみられるように、生徒の変化に柔軟に対応し、指導研究・実践を行った成果であると考えている。

4. SELHi研究の集大成−「香住丘Can-Doグレード」の開発
 より高度な英語力養成のための具体的方策として、4技能統合型シラバスを反映したCan-Do Statements(CDS)(香住丘Can-Doグレード)の開発を行った。このCDSは、Grade1の入学時からGrade6の卒業時まで各学年を2期ずつに分け、それぞれの段階で大体の生徒(70〜80%)ができると判断されるレベルの行動を、具体的に教室で行われている活動やタスクに基づいて、技能ごとに記述した。作成されたCDSは各グレードにおける外部テストスコアと併記して示され、それぞれのグレードでの到達度基準となる具体的な行動記述に加えて、そのグレードの能力レベルが客観的な形で把握できるような形とした。また、内部指標としての本校独自の能力記述の開発に加えCommon European Framework (CEFR)やTOEFL(iBT)のCDSの分析を行って、それぞれのグレードに当てはまると判断され、かつ実際の教室内活動との整合性が高いと思われる能力記述を抽出し、併記した。
このCDS開発の意義と成果は次の様な点である。

(1)

実際の教室内での実践活動に基づくCDSであるので、可読性および具体性が高く、即時利用可能である。
(2)

開発を通じて、それぞれの教員の内的シラバスが可視化され、教員間でCDSを共有できるようになった。
(3)



CEFRのCDSの分析を通して、CEFRのA1からC2までの能力レベルが、「香住丘Can-Doグレード」とどのように対応しているかがわかっただけでなく、CEFRのCan-Doチェックリストのどの項目が、実際の教室での学習場面に適用可能であるかを示すことができた。

SELHiの研究について またSELHi研究指定終了後これらのCDSから各グレードにおいて代表的な項目を選択し、学習者に記述をあらためた上で、学習者向けのチェックリストを開発した。CDSは各学年での学習段階を示すための指針であると同時に、学習者にとっての学習段階を認識するための道具として機能することができる。
 CDS開発において、重要であるのは開発そのものでなく、その後の実際の運用をとおしてCDSの検証を行い、生徒の英語力との整合性を検討しながら、さらに改善していくことであり、その検証のプロセスが、3年間を見通した学習指導体制をさらに強化し、学習者自身が、学習段階をより明確に認識することにつながると考えている。

資料2: Kasumi Can-Doグレード


5. 3年間の研究をふり返って
香住丘SELHiを支えたもの−「人と人とのつながり」

 本校のSELHi研究を支えてくれたものは、「人と人とのつながり」というキーワードで表現できる。

(1) 教員のチームプレー:英語科教員全体の連携も重要だが、やはり英語科担任3人のチームプレーの役割が大きかった。また、学校全体のバックアップがなければ、レベルの高い研究はできない。
(2) 研究者とのコラボレーション:本校のSELHi研究の特長は、運営指導委員会の委員の先生方から指導をいただいたのに加え、研究者と3年間継続的に共同研究を行ったことである。清泉女子大学の長沼君主氏と「英語能力スコアと動機づけの諸要因の縦断的比較調査」を実施した。SELHiクラス(英語科)とNon-SELHiクラス(普通科)で英語学習の意欲と学習効果の関係を考察し、検討会を年2回行った。また「香住丘Can-Doグレード」も共同開発を行った。理論者と実践者が3年間乖離することなく、経年研究が進められたことは意義あることと考えている。実践者と緊密な連携を取ってくれる理論者と、理論を積極的に実践に生かそうとする実践者のコラボレーションは、カリキュラム開発や経年の意識調査には不可欠なものではないだろうか。本校と長沼氏の共同研究のあり方は、新しい高大連携のあり方を提示できるのではないかと考えている。
(3) SELHi授業の取組の様子生徒は「教師の指導をうつす鏡」:生徒たちは、教師の指導によく応えてくれた。生徒をよく見れば、研究の方向性を見いだすことができた。入学時初めて人前でスピーチをする時には、緊張のあまり何も言えなくなった生徒が、1年後ディベートで堂々と相手を論駁している姿を見る時が、指導の成果を実感する時であった。

6. Post-SELHiの取り組み−自律的学習支援
 SELHi研究終了後、生徒の自律的学習支援をめざすPost-SELHiの取り組みが始まった。研究対象を英語科のみから普通科まで拡大し、長沼君主氏との共同研究を継続し、学習動機づけ診断調査のフィードバックの方法の開発を行い、情意的側面からのフィードバックを試みている。また、「香住丘Can-DOグレード」の精緻化を行い、生徒用Self-Checklistを開発し、それを用いた診断調査を実施する計画である。さらにCDS項目のタスク化、CDSの普通科への転用をめざしている。3年間のSELHi研究の成果を、学校全体へ還元する具体的な実践研究が既に始まったところだ。
 SELHi研究の3年間が終わって、新たな研究実践が始まった現在、研究には完成も終わりもないことを実感している。今後も教育の不易の部分を大切に創造に力を注ぐ「不易と流行の融合」を求めていきたいと思う。

参考資料A: 環境問題スキット原稿 「STAR WARS-Episode Kasumigaoka-Save the Earth!」
参考資料B: 4技能統合型シラバス(2005)

参考リンク:
TOEFLメールマガジン第40号 「教室からの声」
Criterion利用校 福岡県立香住丘高等学校

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。 最新情報は関連のウェブページよりご確認ください。
© CIEE, 2006 All Rights Reserved.