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言葉の玉手箱

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連載:言葉の玉手箱 第33回

英語に限らず外国語を学習していると、言葉の世界の奥深さに気付かされます。古来の日本人は言霊(ことだま)と評して、言葉には霊が宿り、見えざる力を働かすのだと考えました。使い慣れた短いフレーズの中にもコミュニケーションを左右するほどの力があるのです。

毎回ご好評をいただいているこのコーナーでは、テンプル大学ジャパンの川手 ミヤジェイエフスカ 恩先生が、異文化間コミュニケーションにおける言葉の使い方の重要性に焦点をあて、興味深く解説してくださいます。言葉の世界の面白さをお楽しみください。

>Dr.川手 ミヤジェイエフスカ 恩(めぐみ) Dr.川手 ミヤジェイエフスカ 恩(めぐみ)
テンプル大学ジャパンキャンパス教養学部
(Megumi Kawate-Mierzejewska, Ed.D., Temple University, Japan Campus)
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2000年より、ETS公認コンサルタントを務めてきた。
専門分野:中間言語語用論(Interlanguage Pragmatics)

『~しないで!』異なるアプローチ

以前に、母語で言いにくいことは、外国語を使っても言いにくいはずであるが、外国語を使っている時は適切な感情移入ができないので、つい誤解を招くような言い方をしてしまう、というエピソードを紹介したことがある。今回は、同じような状況での『~しないで』と言う時に使われた異なるアプローチを紹介し、聞き手に与える印象の違いについて考えてみる。
まず、『~しないで』という言い方だが、 “No”, “Don’t …,”“Please don’t …,” “Plea::::::se [pause] don’t …,”“You might/may not want to …,” “It may not be a good idea to …,”などなど。いくらでも思いつく命令から依頼、提案、客観的なコメント口調など様々な言い方がある。これらの表現は状況、話し手(『~しないで』と言う人)と聞き手の社会的距離や地位等を考えて使い分ける必要があるようだ。使い分けがうまくできないと誤解を招く結果になる。幸か不幸か、非英語母語話者(例えば、日本人英語話者やヨーロッパ言語を母語とする英語話者など)の頭の中に真っ先に浮かぶのは、状況や人間関係などに関係なく“Don’t …”であるようだ。

ヨーロッパ(旧西)のある国のツーリストインフォメーションの売店でのエピソードを紹介しておこう。この国では、商品に触ってはいけないようで必ず店員を呼ぶというような風習になっているようだ。筆者が目撃したのは、Tシャツを購入しようとして手に取って見ていた日本人観光客の横にやってきた店員は、まず観光客が見ていたTシャツを取り上げ(ひったくったと言った方が早いのかもしれない)、“Don’t touch it!”と言った。そして、取り上げたTシャツをきれいにたたんで棚に戻しながら“Ask me what you want, please.”と言った。日本人は驚いた様子で立ち去った。そう言えば、この国では以前にも同じような光景を目にしたことがある。それは、有名な観光地にある大きなお土産物屋さんでのことで、絵葉書を見ていた日本人観光客も同じように、絵葉書を取り上げられて“Don’t touch it!”と、言われている状況に遭遇したことがある。取り上げられた日本人は添乗員らしき人物に状況を説明していた。両者とも店員は、若い女性であった。おそらく、もっと違う言い方もできるのであろうが英語を母語としない話し手にとって、真っ先に頭に浮かんだのが“Don’t touch it!”なのだろう。いづれにしても、この言い方が聞き手にいい印象を与えなかったのは明らかである。

数日後同じような状況でも、年配の店員の対処の仕方は違うことがわかった。これは、ツーリストインフォメーションの近くの駅の構内にあるお土産屋さんでの話だが、やはり日本人観光客がTシャツを手に取って見ていた。そこに店主らしき人物(年配の男性)が近づき、違うTシャツを広げて“We have the different design like this, but do you like the one you have?”と言いながら観光客が探しているサイズも聞いて、きれいな陳列を台無しにされないよう上手に対応していた。この年配男性の対応は印象がよく、店の売り上げを伸ばすことができたようだ。もちろん、この場合でも含意は、“Don’t touch it! Ask me what you want.”と言うことなのだろうが、言い方一つで聞き手に与える印象が全く異なるものになるようだ。

以上、2つの対照的なアプローチを紹介した。日本語で言いにくいことを外国語で話す時は、言い方によって聞き手に与える印象が変わってくるということを念頭に、言葉にする前に、本当にそう言ってしまってもいいのかということを考えてみよう。

最後に余談を一つ。筆者がポーランドのワルシャワ大学で教鞭をとっていた頃、あるアパートを貸してもらっていた。大学が長期休みのシーズンは何人かの異なる研究者がそこを使っていたらしい。そのアパートの居間には何本かとても高価なお酒があった。それぞれのお酒のラベルの上に髑髏(どくろ)のマークがマジックで書いてあって、『Dangerous! Poisonous!』更に、日本語で『毒が入っています』と書いてあった。筆者はすぐに狂言の『ぶす』の話を思い出した。もちろん含意をくんで手はつけていないが。ここでの含意(illocution)は、『飲まないでほしい』と言うことであろうがこの解釈が、普遍的であるかどうかは定かでない。と考えると、“Don’t touch it!”の意図は誰にでも理解できるものであろうが、やはりお勧めはできない。

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