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毎年たくさんの映画が公開され、洋画も手軽に楽しむことができますが、海外の映画を日本で上映するために尽力されている方々がいます。海外の映画祭で関係者と交渉し、映画を買付ける。英語を使い海外とつながる仕事をされているフロントランナーとして、今回は株式会社キノフィルムズで洋画の買付を担当されている谷川由希子さんにお話しをうかがいました。2016年1月公開の映画『パディントン』を例に、映画買付とはどんな仕事なのか、海外の映画関係者との交渉の舞台裏や、この仕事を始めた時の英語で苦労されたことや、お仕事の魅力についてお話してくれました。


世界の4大映画祭で買付の交渉にのぞむ

海外映画の買付はどのように行うのでしょうか?

年に4回、フランスのカンヌ、カナダのトロント、アメリカのサンタモニカ、ドイツのベルリンの映画祭が4大マーケットです(※アメリカのサンタモニカは映画祭の開催はなく、マーケットのみ開催)。映画祭で併催されるマーケットへ配給会社が参加して映画の売買を行います。マーケットの前に、世界中のセールス会社から各国の配給会社へ映画の企画や脚本がメールで送られてきます。現地で映画を見て買い付ける場合もありますが、近年は買付が早期化しているので企画の段階で取引されることも多くなっています。特に歴史上の有名な人物の伝記もので、有名な役者がキャスティングされている場合は早い段階で配給会社からオファーが集まります。

御社として買い付ける映画はどのように決定しているのでしょうか?

事前に送られてくる脚本と、キャスト、スタッフ等で、日本で可能性がある作品を社内の会議で絞り込み、オファーするタイトルや金額を決定します。基本的には脚本を読んで琴線に触れるものを選んでいくということを軸にしています。その後、セールス会社へ金額や日本での展開を伝えて買付の交渉をします。複数の会社からオファーが集まった場合、セールス会社が条件を考慮してどの配給会社へ売るかが決まります。

 

フランスやドイツでも交渉は英語で行われるのでしょうか?

そうですね。英語で交渉を行います。事前にメールでやりとりをし、アポを取って現地でフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションで条件を詰めていきます。

契約が成立してから公開まではどのくらいの期間かかるのでしょうか?

映画によるのですが、完成している映画であれば、1年以内に公開されることもあります。契約締結後から撮影に入るような映画の場合は、2、3年かかる場合もあります。その間にキャスティングが変更されたり、撮影が中止になったりすることもあるのですが、そのようなリスクも踏まえながら、過去の経験を活かして買付を行っている面もあります。

契約成立後は、撮影に入りましたと言うお知らせや写真がセールス会社から送られてきます。撮影完了後は2分ほどの予告編が送られ、本篇も完成されると本国での公開開始後にDCPという素材が送られてきます。そこから本篇の台詞を翻訳して、日本での上映用の素材を作るという流れです。DCPはデジタル・シネマ・パッケージの略で、今はフィルムではなくこのDCPになっています。

『パディントン』の場合はどのように買付されたのでしょうか?

最初に「実写でニコール・キッドマンが出演する」という企画が出たのが、2012年のトロント映画祭でした。世界的に有名なパディントンですが、日本では知名度が高くないのでどこの会社も手を出さずにいたのですが、2014年のベルリン映画祭で映像が公開された時に、パディントンの愛くるしい動きを見て「こんなに人をハッピーにさせるキャラクターはいない」と弊社のスタッフが心を動かされて買付が決まり、そこから交渉が始まりました。見た目は野性のクマなのですが、紳士的で日本人にも受け入れられやすいキャラクターだと思ったのも理由のひとつです。

映像の素材が送られてきてから上映まで、翻訳の他にどのようなことをされていますか?

映画のタイトルは原題と同じ場合もありますが、異なるものにする場合は宣伝担当が日本向けのタイトルをつけます。チラシや予告編映像、宣伝の方針や企画などについて映画のプロデューサー側に許諾をもらうのですが、その交渉に数か月かかる場合があります。こだわりのあるプロデューサーだとNGが出たりもするのですが、「日本のマーケットはこうだからこういう意図でやりたいんだ」ということを電話で話し合い、やっと理解してもらいます。そこでもやはりメールではなく話をしてお互いを理解し合うということが多いですね。『パディントン』の場合も、チラシの内容や予告編の内容、日本語版のボイスキャストの決定などの交渉に全部で4か月ほどかかりました。

完成された映画を見て、谷川さんが個人的に好きなシーンはありますか?

ブラウン家のお父さんに失礼なことを言われた時に、それまでかわいい顔をしていたパディントンが一瞬とても怖い表情を見せるシーンが見ていて面白く、癒されました。パディントンとブラウン一家の関係を通して、子どもだけでなく大人が見ても、家族の大事さなどに気づかされる映画だと思います。

 

顔を合わせたコミュニケーションが大切

お仕事ではどのくらいの頻度で海外へ行かれているのでしょうか?

映画祭を中心に年に4、5回で1回の渡航が7日から10日間くらいです。

色々行かれている中で好きな街はどこですか?

カナダのトロントは街並みに解放感があり、人も日本人に似て親切なので好きですね。あとドイツのベルリンは、ヨーロッパ独特の建物に囲まれて、食べ物もとても美味しいので気に入っています。仕事の後、海外のセールス会社の方と一緒にごはんを食べに行くということも多いです。

初めて海外へ行ったのはいつですか?

高校生の時に1か月くらいニュージーランドへホームステイしました。そこで初めてホストファミリーと過ごして、英語で会話することの難しさよりも喜びを感じました。

映画買付のお仕事に就かれたきっかけは何だったのでしょう?

映画の最後に日本の配給会社のロゴが出るのを見て、日本でも洋画に関わる仕事ができるのだと知り、洋画に関わる仕事に就きたいと思いました。当時は英語で仕事をしていく自信がなかったので、宣伝や、上映する劇場を決める劇場営業という仕事などができたら良いなと考えていましたが、新卒で入った会社で最初に買付の部署に配属されたのがきっかけになりました。

自信の無い分野に配属されてご苦労もありましたか?

最初の頃は、電話で相手の名前が聴き取れなかったり、ビジネス用のメールやファックスが上手く書けなかったり、毎日大変な思いでした。最初はアシスタントとして日本で上映するための素材を取り寄せたり、日本向けに作成したチラシなどを海外に許諾を取ったりする仕事があるのですが、一日に何十件もそのやりとりをしていました。

それをどうやって乗り越えましたか?

電話が苦手でも積極的に自分からかけるようにして、毎日メールを読んでいくうちに徐々に慣れていきました。

海外の関係者と交渉する際にはどのようなことに気を付けていますか?

日本人は比較的童顔で若く見えるので、海外の40代、50代の英語が母語の人と対面したときに、慌てずに落ち着いて堂々とコミュニケーションすることが大切だと思います。相手の話をしっかり聞いたうえで、理路整然とはっきりと主張するこが大事だと思っています。

同じような仕事をしたいと考えている方にアドバイスはありますか?

自分が英語を使って仕事をするようになって思うのは、やはり色々と吸収できる学生時代に短期でも長期でも思い切って海外に出て、視野を広げたり感性を磨いたりすることが大事だなということです。環境によって海外に行けない方は、海外のドラマや映画を字幕無しで見たり、海外から来た友人を作ってコミュニケーションしたりすることがとても大切だと思っています。電話やメールだけでなく実際に会って、お互いのキャラクターを理解し合ってこそいいビジネスができると思います。

買付のお仕事に就いて良かったと思うことは何ですか?

まだ世に出ていない作品の企画や脚本を読んで映画を広めていくことは一番の喜びですし、学生時代は雲の上の存在だった監督さんや役者さんに実際に会ってコミュニケーションを取れることはとても幸せなことだと思っています。

最後に、海外に興味のある人たちにとって『パディントン』の見どころを教えてください。

イギリスが舞台の映画なので、もちろんイギリスの英語や文化が好きな方にとってはとても面白いものだと思いますが、新しい街や家族に出会い、初めは疎外感を感じながらもだんだんと受入れられていく点は、移民や留学などの経験にも通じる要素が含まれていると思います。これから海外に出て行こうという人には出発前に見ていただきたいと思います。大人が見ても楽しめ、笑顔になれる映画ですのでぜひお楽しみください。

Profile:谷川由希子/Yukiko Tanigawa


1978年生まれ。関東学院大学英米文学科卒業。
㈱ギャガ・コミュニケーションズを経て2011年にキノフィルムズに入社し、主に洋画の買付を担当。
好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ポンヌフの恋人』『ディオールと私』など


映画『パディントン』(2016年1月15日全国ロードショー)
『ハリーポッター』のプロデューサーが贈る 全世界320億円超えの大ヒット作
“見れば納得!”愛すべき紳士なクマの笑いと冒険の感動ストーリー!
映画『パディントン』公式サイト

 

© 2014 STUDIOCANAL S.A.  TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S
Paddington Bear™, Paddington™ AND PB™ are trademarks of Paddington and Company Limited www.paddington.com

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