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世界最大のコンペティションで優勝

みなさんは「スティールパン」をご存じでしょうか?カリブ海の島国、トリニダード・トバゴで生まれた打楽器です。元は「ドラム缶」ですが、叩いて出る音はとても耳触りが良く、透き通っています。本場トリニダード・トバゴでは120人編成のバンドが組まれ、夜明けまで熱狂する大きなコンペティションが開かれます。この世界最大のスティールパンコンペティション「PANORAMA」で2013年、2014年と2年連続優勝を果たしたバンド、 “Phase Ⅱ pan groove”。そのバンドで現地の人々に混じり最前列でスティールパンを叩いている日本人女性がいます。

今回はそのスティールパン奏者、二ノ宮千紘さんへのインタビューです。大好きになった楽器が生まれた本場の大会で優勝するという最高の海外体験。その経験を振り返って思う今の気持ちをうかがいました。


演奏している姿が楽しそう!~スティールパンとの出会い~

スティールパンに出会う前はどんな楽器を演奏していましたか?

3歳の時からピアノを習っていました。中学生の時には吹奏楽部に入り、打楽器の担当になったことがきっかけで打楽器に目覚め、更に本格的に勉強したいと思い、高校でも吹奏楽を続けて、マリンバという楽器を習い始め、そこから音大を目指すようになりました。

初めてスティールパンの音を聴いたのは大学の時ですか?

音大の中に打楽器のサークルがいくつかあって、その中にスティールパンのサークルがあり、歓迎会で先輩たちが演奏してくれたんです。その時、初めて生演奏を聴いたのですが、本当に楽しそうに演奏しているのを見て、「こんなに楽しい音楽があったんだ!」と思ってすぐに「やりたい!」と思いました。初めて聴いたはずなのに、どこか懐かしい感じもして。本当に一目惚れでしたね。 そのサークルに入ってからは、毎日スティールパンばかり練習していました。

初海外がトリニダード・トバゴ ~楽器が生まれた国への渡航~

 

楽器を演奏していくうちにトリニダード・トバゴへの興味も増していったのですか?

そうですね。大学時代も、トリニダードで演奏されている曲をたくさん聴いていたし、演奏してきたので、いつか行ってみたい!と日に日に思うようになりました。現地のスティールパンのコンペティション「PANORAMA」では、大きい編成だと、ひとつのバンド120人で演奏します。各バンドに曲をアレンジするアレンジャーがいて、演奏力やアレンジを競うのですが、その演奏やアレンジがすごくレベルが高くてかっこよくて、グッと引き付けられるものがあるんです。CDやYou tubeなどでPANORAMAのステージの演奏を、スティールパンを始めた頃から聴いていたので、ずっと憧れのステージでした。

トリニダード・トバゴへ行くことなったきっかけは?

「いつか行こう!」とずっと思っていましたが、それまで海外に行ったことがなくて、一人で行く勇気がずっと持てずにいました。去年仲間たち数名と「行こう!」ということになって、ようやく行けることになって。英語もほとんど話すことができなかったし、なにせ初海外だったので、仲間たちに本当に助けられました。

2013年に最初にトリニダード・トバゴに行った時は、事前に現地へ連絡など取って行ったのですか?

特に事前に現地の方への連絡ということはせず、いきなり行って、まずバンドの見学をしましたね。すごくたくさんの数のバンドがあるのですが、バンドごとの音やアレンジがあって、同じ曲をやるにしても、もちろんアレンジが全く違います。どのバンドが自分に合っているのか、どの音が好きか、などいろいろな観点から見てみようと思っていましたが、実際は、本場の音色と迫力に、どのバンドを見ても感動しかなかったです!

はじめてトリニダード・トバゴの地に降り立った時はどんな気持ちでしたか?

「ずっと来たかった国!!ついに来た!」という嬉しさと、夢の舞台で演奏できるかもしれないワクワク感でいっぱいでした。 でも、それと同時に、実際は不安もたくさんありました。 英語がうまく話せなくて、まず税関を通るのも一苦労だったり(笑) トリニダードは、楽しいだけでなくて、色々なことに気をつけて行動しなければいけない国だと聞いていたので、その辺も不安がたくさんありましたね。

現地ではどのような場所に滞在していたのですか?

現地に来る日本人をサポートしてくれる日本人の方がいて、その方に良いゲストハウスがないか事前に相談し、一緒に行った仲間5名ほどと約40日間共同で生活していました。私たちが住んだのは一軒家のようなゲストハウスで、食事もみんなで分担して自炊。家族のように、わきあいあいと生活していました。 バンドはみんな違うところに入ったので、練習が終わってみんなで飲みながら色々と情報交換するのも楽しみでした。

二ノ宮さんが入ったバンドはどのようなきっかけで選びましたか?

私が入った“Phase Ⅱ pan groove”は、演奏を聴いた瞬間に涙が出るほど、私が好きな音だったんです。 私のイメージしていたサウンドがそこにあって。「もうここしかない!」と思って即決でした。

すぐにバンドのリーダーに「このバンドで演奏したい!PANORAMAに一緒に出たい!」と言ってお願いしました。「いいよ」とは言ってくれたのですが「出られるかはわからないけどね」というニュアンスで。演奏する位置や本番で演奏できるかは結構厳しく見られて、落とされる場合もあるんです。そこからは、PANORAMAに出るために、毎日猛練習でしたね(笑)

バンドのメンバーはどのような人たちですか?

中には数名プロの人もいますが、基本はみなさん他に仕事を持って、仕事が終わると練習に集まってきます。
でも、本当にみんな上手で、体の使い方、音の出し方など勉強になることがたくさんありました。でも、1番勉強になったというか、再認識できたことは、「音楽は楽しむもの」という基本を感じることができたことかな、と思います。

プロだろうが、そうでなかろうが、そんなことは何も関係なくて、ただただ、スティールパンが好きで、そのバンドの音楽が好きで集まってくる。そして練習が終わると、みんなでライミング(トリニダードでは集まってゆるりと語りながら飲んだりすることを言います)して楽しんでいて。スティールパンが生活の一部になっていて。「音楽って、そういうものだよな」と、日本で忘れかけていたことを思い出させてくれました。


現地では、練習はどのように進むのですか?

たいてい、夜の8時や9時から仕事を終えたメンバーが集まってきて始まります。現地の人は、のんびりな気質なのか、指定された時間の約2時間後くらいに集まることが多かったですね(笑) だいたい12時くらいには終わりますが、アレンジが長引いたりすると深夜2時、3時までやることもありました。野外なのにそんな時間にもガンガン演奏していて、そんなところも素敵だな、なんて思ったり。 練習の度に新しいフレーズが増えていくので、練習をお休みしたメンバーには、私が変わったところや新しくできた場所を教えてあげることもありました。

日本と異なる点はありましたか?

まず、譜面がないので、音は全部口頭で言われます。アレンジは出来上がったものがあるわけではなく、その場で作っていきます。アレンジャーに英語で「テナー(メロディ担当)の人は、C、A、G、…」 など音やコードを言われて、「リズムはこうで…」というのを繰り返して覚えていきます。前に作ったアレンジが、変わることもたくさんあって、ファイナルでの演奏までに完成させていくような感じで毎日練習が進みます。なので、毎日の練習も、「今日はどんなフレーズが生まれるんだろう…」というワクワクでいっぱいでしたね。 アレンジも作っていく段階から間近で感じることができたので、本当に勉強になりました。

あとは、日本だとスティールパンの音は柔らかい癒しのイメージがありますが、トリニダード・トバゴでは熱く激しい音を出すので、自分の出す音もどんどん変わっていきましたね。

熱狂の夜 ~PANORAMAへの出演、そして優勝!~

 

「PANORAMA」の規模はどれほどのものなのでしょうか?

PANORAMAは、予選から始まって、セミファイナル、ファイナルと3段階あります。バンドも、シングルパンバンド、スモールバンド、ミディアムバンド、ラージバンドと人数によってカテゴリーが分けられていて、出演バンドもたくさん。私の参加したバンドは、ラージバンドなので出番は最後のほう。本番はもう朝方でした。PANORAMAでは、バンドごとに100人以上の楽器を総入れ替えするんです。採点に「音色点」というのがあって、バンドごとの「音」を出すために自分たちの楽器を使うので、全て入れ替えます。車輪付きのラックに楽器をかけて、ステージまで移動。会場はサバンナという大きな公園なのですが、そこに出演バンドが楽器ごと集結します。バンドにはサポーターと言われるファンがついていて、サポーターも一緒に出番を待つので本当にすごくたくさんの人で賑わいます。出番待ちで練習している時から、とても盛り上がるんです。各バンドが出演順に列を作っているので、前のバンドが動いたら進み、待っている間は練習して…そうして少しずつステージに近づいていきます。

本番は最高に楽しくて、あとで写真を見ても、今まで自分でも見たことがないような、最高の笑顔だな、と思います。あの迫力、あの音の渦、あのグルーヴ…たまらなかったです。

 


初めての優勝が決まった瞬間はいかがでしたか?

優勝が決まった瞬間、ステージへみんなで駆けあがっていきました! メンバーとも、自然に抱き合って喜びました。 夢にまで見たPANORAMA の舞台で、スティールパンの音の渦の中で演奏できるだけで幸せだったのに、 まさかこんな最高の経験ができるなんて…感無量でした。


出番が明け方では、その後の打ち上げはもう朝ですね。

練習場へ戻ってから、7時くらいに朝日とともに(笑)



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