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  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第91回 アメリカの大学へ入学する為に必要な一斉試験SATについて(1)
SATとはどんなテスト?無料SATオンライン・コースは?

アメリカの大学の多くは入学を希望する留学生にTOEFL® テストに加えてSAT(*1)のスコアを要求するようになりました。(*2)特にトップ大学に顕著にみられる傾向です。Harvard大学は全学生を同等に扱うことをモットーに、国籍いかんに拘らず全応募者にSATのスコアの提出を求めています。(*3)

SATの歴史は90年前の1926年にまで遡ります。アメリカの非営利団体The College Board(*4)に属し、その依頼を受けてTOEFLテストを運営するEducational Testing Service(ETS)が問題作成と運営を行っています。当初はScholastic Aptitude Testの略称でしたが、その後にScholastic Assessment Testの略称に変わりました。それからSAT Reasoning Testに改名され、2005年よりSATとなり、今日に至ります。

こうした名称変更は、その方針と内容の改編と連動して行われてきました。2016年春より新たな方針と内容の改編がされるとのことですが、名称変更は無くSATのままのようです。ただし、これまでの方針を大きく変えるようです。かいつまんで言うと、これまでのSATは大学教育に対してどの程度準備ができているのかを測定するものであったために、高校の授業内容と必ずしも直結していませんでした。今回の改編では高校の授業活動に密接に近づいた内容になると述べています。例えば、今までのSATでよく出題された、高校の授業では習わず、大学の授業や社会でしか習わない曖昧で難解な語彙・表現は出題されません。また、答えではなく、答えをサポートするエビデンス(supporting evidence)に比重をおくように設問方法も変わるとのことです。それに伴い、正答を評価し誤答を罰する採点方式(right-only-scoring)は採らないと明言しています。これは大改革です。前回(第90回 TOEFL iBT® テストに挑戦しよう(2))の本欄で筆者は、アメリカの教育は自分で考えて問題発見解決することを一貫して重視しており、リサーチの情報収集、観察、立論、検証などの4過程を重視すると述べましたが、今回のSATの改編では高等学校で行われているそうした授業に直結して習熟度を測定することになるものと思われます。

これまで多くの改革が試みられてきましたが、今回の改編では人種や経済による格差がSATに反映されることのないようにしようとの思いが強く込められているような気がします。アメリカにも大学受験の予備校(preparation schools)のようなものがあります。経済的に豊かな家庭の子女はそのような学校に高額な授業料を払い訓練を受けることができますが、そうでない家庭の子女は受けられません。それがSATのスコアに反映されてきたのも事実です。そういう格差を解消する一環として、The College BoardはKhan Academyと提携し、無料オンラインPreparation courseを提供し始めました。誰でも無料の練習問題にアクセスでき、一人で勉強できます。こうした無料のコースが更に充実すれば経済格差による不利益を解消する一策になるでしょう。

“2012-13 Getting Ready for the SAT”にアクセスしてみましょう。サイトのアドレスは http://s3.amazonaws.com/KA-share/Toolkit-photos/sat/2012-getting-ready-for-the-sat.pdfです。2012-2013年のSATをベースにした練習問題がSATの傾向と対策を含めて全88ページに納められています。その2ページ目に、“Check out the latest Trilogy Sensation!”と題して、The Official SAT Online Course, The Official SAT Study Guide, Free SAT Practice Toolsの3部構成のThe College Board公式のオンライン・プラクティス・コースにアクセスできます。アドレスはhttp://sat.collegeboard.org/practiceです。早速開いて見てみましょう。無料のものと有料(約$30)のものがあります。2016年春に導入される新テストの為の練習問題はありませんが、SATに慣れるのには役立ちます。

尚、The College Boardには、電話やインターネットでThe College Boardの委員または職員を偽り、高額なSAT Preparation courseに勧誘したり教材を売りつけたりするケースなどの報告が寄せられており、注意を促しています。The College Boardがそのような勧誘をすることはないと注意しています。

SATはアメリカおよび他の国々で、10月、11月、12月、1月、3月(または4月)、5月、6月に各1回ずつ全7回実施されます。1回しかない日本のセンター試験に比べ、一発勝負のリスクからは解放されます。受験料は1回につき$54.50です。但しアメリカ国外ではもう少し高くなります。外国も含め、SATを受ける場所については、The College Board のSAT Test Center Search(https://sat.collegeboard.org/register/test-center-code-search)でチェックできます。

SATは(1)Critical Reading(2)Mathematics(3)Writingの3つのセクションで構成されています。 上記“2012-13 Getting Ready for the SAT”を参照に、それぞれのセクションについて簡単に説明します。次号(3月8日更新予定)でもう少し詳しく説明します。2016年春以降も上記で述べた改編以外に大筋は2013-2014と同じであると思われます。どのセクションにも(1)Easy(2)Medium(3)Hardの3段階の難易度の問題があります。各セクションの配点は800点で合計2400点です。

(1)The Critical Reading Sectionには、Sentence completion questions(19 questions)とPassage-based reading(48 questions)があります。(2)The Mathematics Sectionには、Multiple choice(44 questions)とStudent-produced responses(10 questions)があります。後者は与えられた選択肢から正解を選ぶのではなく、受験者が考えた答えを解答欄(マークシート)にマークして書き入れます。(*5)(3)The Writing Sectionには、Multiple-choiceとEssayがあります。Multiple-choiceは、Improving Sentences(25 questions)とIdentifying sentence errors(18 questions)とImproving Paragraphs(6 questions)の3つがあります。Essayはshort passageを読み、それについて自分の見解を書きます。

後日受験者に結果が報告されますが、(1)と(2)についてはそれぞれの合計点が(200~800スケール)で、(3)のWritingについてはMultiple-choiceとEssayを分けて報告するとあります。

SATのThe Critical Reading Sectionのcriticalという言葉は、SAT全体を示すキー・ワードでしょう。アメリカ教育界では20世紀中頃よりcritical thinkingという概念が脚光を浴びていますので、それに端を発するものと思われます。簡単に言えば、物事を鵜呑みにするのではなく批判的に考えるということでしょう。そういう意味では前回(第90回 TOEFL iBT® テストに挑戦しよう(2))述べたリサーチはどの過程でもcritical thinkingが必須です。

大学は教育機関であり研究機関(research institute)でもあります。教育と研究を融合し、研究を通して教育を、教育を通して研究を行う場であることを理想とします。アメリカでは、リサーチを通してcritical thinkingの力を育成することは中等教育(中学校・高等学校)でも行っていますが、高等教育機関としての大学ではもう一段階高いacademic settingのリサーチとそれに伴うcritical thinkingの育成ということになるでしょう。SATはそうした段階に進むのに十分な能力を持っているかどうかを評価するものと考えてよいでしょう。

アメリカの大学に入学する為には、SATとTOEFL iBT® テストの両方を受けなければなりませんが、前者はアカデミック・セティングのリサーチを行うのに必要な基礎学力、後者はそれに必要な外国人としての基礎英語力を備えているかをテストするものと考えましょう。両者は根本的には同じです。(2)The Mathematics Sectionのコンテンツは日本の中学校や高等学校の授業で学習したことを押さえておけば十二分に対応できます。問題は数学用語を英語で理解できるかです。(1) The Critical Readingと(3)Writingはアメリカ人にとっては日本の現代国語にあたる部分です。TOEFL iBTテストのReading SectionとWriting Sectionは外国語としての英語におけるreadingとwritingと比べると難易度は高いかもしれません。しかし、両方ともacademic settingでありcritical thinkingを基盤にしている事は同じです。

次号の3月号(3月8日更新予定)では、SATのそれぞれのセクションの問題とTOEFL iBTテストのそれぞれのセクションの問題を比較します。SATのEssayなどは基本的にはTOEFL iBTテストのWriting Sectionと評価基準はあまり違わず、筆者が前回(第90回 TOEFL iBT® テストに挑戦しよう(2))紹介した『発信する大学英語Do Your Own Project in English Volume 2』のPart Ⅱ(Advanced project, academic writing and presentation)で十分対応できるのではないかと考えます。

これを機に、The College BoardのSATのサイトを開けて目を通してみましょう。できたら無料の練習問題を試してみましょう。英語力がアップします。

 

(*1)College Board, The SAT(http://professionals.collegeboard.com/testing/sat
(*2)SAT以外に大学によってはACT(American College Test, https://www.act.org/)のスコアも要求する場合もあります。
(*3)Harvard University, International Applicants (https://college.harvard.edu/admissions/application-process/international-applicants)を参照の事。以前述べたように、このモットーの下で奨学金も国籍いかんに拘らず誰でも応募できるようです。
(*4)The College Board (https://www.collegeboard.org/contact-us
(*5)“2012-13 Getting Ready for the SAT”の22ページ参照。 http://s3.amazonaws.com/KA-share/Toolkit-photos/sat/2012-getting-ready-for-the-sat.pdf

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。