For Lifelong English

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  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第90回 TOEFL iBT® テストに挑戦しよう(2)
プロジェクトを通してアカデミック・セッティングのリサーチ・スキルを習得しよう

昨年12月号(第89回 TOEFL iBT® テストに挑戦しよう(1))の続きです。TOEFL iBT® テストに備え、筆者が考える学習方法を提案します。TOEFL iBTテストは、アメリカの大学・大学院教育に要するアカデミック・セッティング(academic setting)におけるlistening、reading、speaking、writingの総合的な(integrated)英語能力を測定するテストです。では、アカデミック・セッティングの総合的英語能力とは何でしょうか。答えは前回掲げた各セクションの説明文から抜粋した以下の文言に明示されています。

「メイン・アイディア、サポーティング・アイディア、情報・アイディア構成、聞いたことばから推論される意味、話者の目的・姿勢などをめぐる高度なもので、分析力、構成力、批判力、推論・判断力が試される。」(Listening Section)

「因果関係、相関関係、比較対照、立論・論証などのレトリックの理解を要する文章が出題される。それに沿ってメイン・アイディア、サポーティング・アイディアに関する情報、レトリック、文章全体から読み取れる総合的なアイディアを試す。」(Reading Section)

「読んだり、聞いたりしたものを分析し総合して自分の考えをまとめて効果的に伝えられるかどうかを試す。」(Speaking Section: Integrated Task)

「各自が関心を持つトピックについて自分の意見をまとめたエッセイを書く。内容、構成(起承転結)、創造力、論述力などを試す。」 (Writing Section: Independent Task)

これらの文言から、アカデミック・セッティングの総合的英語能力は、アカデミック・セッティングの「リサーチ」に要される総合的英語能力のことであることが分かります(*1)。アメリカの教育は自分で考えて問題発見解決することを一貫して重視しており、幼稚園から高等学校にいたるK-12(幼稚園から高校)(*2)の早い段階からプロジェクトを通した発信型活動を奨励しています。プロジェクトの原動力はリサーチです。その質がプロジェクトの質を決めると言っても過言ではありません。当然プロジェクトと表裏一体のリサーチ能力の育成が最重視されることになります。K-12のプロジェクト活動を通してリサーチの基本を身につけ(*3)、大学では次のアカデミック・セッティングのプロジェクトとリサーチに挑戦し、大学院でその集大成をするという流れです。

ではリサーチとは何でしょうか。リサーチは帰納法(inductive reasoning)と演繹法(deductive reasoning)の2つに大別できます。帰納法は次の4つの過程を踏みます。[1]情報を収集する(Collect data)⇒ [2]情報を観察する(Observe data)⇒ [3]立論(仮説/理論)する(Hypothesize)⇒ [4]仮説/理論を検証する(Verify hypotheses)です。演繹法は帰納法の[1]と[2]を省いた[3]立論 ⇒ [4]検証の2つの過程から成ります。20世紀以来、科学の世界は実験主義(experimentalism)が主流で、帰納法ではデータ収集から検証までの4過程で、演繹法では立てた説を検証する2過程で実験を想定します。

ちなみに、筆者の専攻の言語学も実験科学を目指して来ました。20世紀前半に隆盛した行動主義心理学の流れをくむ構造主義言語学は帰納法を採り、刺激と反応による言語モデルを構築しました。後半にはデカルトの合理主義に基づいたチョムスキーらの生成文法論者が演繹法を採り、言語の習得はヒトの生得的言語能力(competence)に依拠するとの仮説を立て、様々な言語からエビデンスを集めて実証しようとしました。

以上、2つのリサーチ方法を紹介しましたが、他にも多々あります(*4)。いずれの方法論を採ろうとも、アメリカではK—12から問題発見解決型のプロジェクトを通してリサーチ・スキルを訓練していると考えてよいでしょう。

何やら難しそうに見えますが、日常でも繰り返し行われている事です。例えば、筆者は昨年乗用車を買い替えました。燃費の良い安全な車を探すプロジェクトの始まりです。[1]ネットやパンフレットで情報を集め(Collecting data)⇒ [2]試乗して観察し(Observation)⇒ [3]何台かの車種に絞り(Hypothesizing)→ [4]それらを再度試乗して1車種に絞り購入しました(Verification)。

リサーチの全過程で、上記に列記したTOEFL iBTテストが強調する分析力、構成力、批判力、推論・判断力が求められ、ディスカッション、ディベート、プレゼンテーションなどの知的活動を誘発し、結果、夥しい量のlistening、speaking、reading、writingなどの言語活動のみならず五感を伴う心身の活動が惹起されます。まさにコミュニケーションそのものです。コミュニケーションはプロジェクトを推進するリサーチ活動と言っても過言ではありません。私たちの日頃の生活はこうした活動で溢れています。親密、カジュアル、インフォーマルな場から学業や会社業務などのフォーマルな場にいたるまで、その時々の関心事をめぐってリサーチが繰り広げられてこうしたコミュニケーション活動が生まれるものと考えます。

前述した通り、大学や大学院などの高等教育機関は「アカデミック・セッティング」で、アカデミックなプロジェクトとリサーチ活動を追究する場です。卒業論文、修士論文、博士論文は、それぞれの課程で最後を飾るアカデミック・セッティングのプロジェクトとリサーチの集大成です。特に全教育課程の頂点である博士過程での論文はプロジェクトとリサーチの総集大成です。筆者はアメリカの大学院博士課程で英語の法助動詞(English modal verbs)の意味論について博士論文(*5)を執筆しました。その為に、[1]主要辞書やデータ集(corpus)から法助動詞のデータを集め⇒ [2]分析・観察し⇒ [3]言語学、英語学、言語哲学関係の著書や論文を読んで仮説を立て⇒ [4]再度データに照らして検証しました。論文主査のWalter A. Cook教授(言語理論)、副査のR. Ross MacDonald教授(英語学:統語・形態論)、Charles Kreidler教授(英語学:音韻論)が、筆者の[1]~[4]の過程について懇切に指導してくれました。リサーチが足りずにやり直し、その都度論文を修正して最終ドラフト(the final draft)を提出しました。それを主査と副査が読みます。合格すると、後日、更に数名の教授を加えた口頭試問(oral defense)に進みます。[1]データ⇒ [2]観察⇒ [3]立論⇒ [4]検証の4過程それぞれで十分なリサーチがされているか審査員から厳しい質問がされ的確に答えなければなりません。極度の緊張のなかで長時間のディフェンスが終わると、審査委員が別室に移り合否の審査をします。あの鬼の形相だった教授陣が満面の笑みを浮かべて“Congratulations, Dr. Suzuki!”と言ってくれた時の感激は今でも忘れません。

アカデミック・セッティングのリサーチは、基本的には日常生活で行うリサーチ活動と本質は同じですが、専門性が高く緻密で抽象的です。学術的用語・表現(academic jargons)を駆使し、それぞれのアカデミック分野の様式に沿った論文の執筆、口頭発表、質疑応答が求められます。

こうしたアカデミック・セッティングのリサーチの能力は一朝一夕で習得される物ではなく、幼少期から自分で考えながら育んできたリサーチ・マインドの基盤がなければなりません。種の進化がそれ以前の全進化過程の延長線上にあるように、それ以前のリサーチ活動で蓄積されたノウハウの延長線上にあるということです。上述した通り、リサーチは毎日のコミュニケーション活動、大小公私のプロジェクト活動で行われています。私たちは幼少期よりその時々の関心事について情報を集め観察し仮説を立て検証してきました。筆者も幼少期にはビー玉やメンコ遊びにこり、どうしたら強くなれるか、近所で最強と目される年長者の所作を見て情報を集めて、遊ぶ様を観察し、仮説を立てて失敗を重ねながら試して強くなりました。ビー玉やメンコ好きの集まりは、ゲームをしながらこうした探り合いが交叉し、言い合いながらもよく話しました。筆者の幼少期の体験のほんの一例ですが、非常にカジュアルなセッティングのリサーチ活動ですが、後世に役立つ事に成る「仲間作り」には欠かせないコミュニケーション活動でもありました。アカデミック・セッティングのリサーチの基盤は幼少期に始まるこうした親密カジュアルなリサーチ活動にあるものと考えます。筆者の英語プログラムでも、受講者が中学生であれ、高校生であれ、大学生であれ、このレベルから始めます。『プロジェクト発信型英語 Do Your Own Project in English Volume 1 』(*6)の Part 1(Self-appeal, mini-project and mini-presentation)に沿い、自分が好きなことをテーマにプロジェクトを組み徹底的にリサーチして成果を英語でプレゼンテーションします。

思い出してみましょう。中学生位から部活動など他と共同で活動する機会が増えますね。先生、先輩、後輩、同級生を意識しながらのフォーマルとカジュアルの中間に位置するインフォーマルなセッティングの比重が増します。部活動などのフォーマルな場が増え、大会での優勝を目指してのプロジェクト活動とリサーチが始まります。サッカー部なら相手チームについてそれなりのリサーチが無ければ負けてしまいます。高校生になるとフォーマルなコンテクストは更に増し、よりしっかりとしたリサーチ活動が求められます。進学するにせよ就職するにせよ進学先の大学や就職先の会社に対して願書や履歴書を書かなければなりませんが、それまで行って来た様々な活動についての言及が必要です。フォーマリティーは俄然高まります。アメリカの大学では願書に課外活動も含めてどのような事に関心があり、どのようなプロジェクト活動をし、大学ではどのように発展させるかを書かなければなりません。プロジェクトを通してリサーチする能力の有無をチェックします。筆者のプログラムでは、『プロジェクト発信型英語 Do Your Own Project in English Volume 1』のPart Ⅱ(Project, research, discussion and presentation)に沿って、フォーマルなプロジェクトを組んでリサーチし、成果をプレゼンテーションします。

大学では研究教育機関としてアカデミックな訓練を受けます。それに伴いプロジェクトとリサーチが一気にアカデミック・セッティングなものになります。大学院修士課程と博士課程に進むに連れてその度合いは高まります。アメリカの大学の1年次と2年次の授業ではアカデミック・セッティングのリサーチ方法の基本を教える必須授業があります。筆者がアメリカ留学中の1970年代は、Freshman EnglishとSophomore Englishと称するコースがあり、様々な作品を読み、ディスカッションし、毎週ペーパーを書きプレゼンテーションさせていました。以前本コラム(第82回 自分の関心を追究し、自分に合う専攻を探せるアメリカの大学カリキュラム)で紹介したHarvardのCore Program(*7)のように、現在は形を変えてオファーされています。

TOEF iBTテストの4つのセクション(Listening Section, Speaking Section, Reading Section, Writing Section)では 、アカデミック・リサーチに要するlistening、speaking、reading、writingの4スキルがあるかを測定します。コンテンツも英語自体もアカデミックなものであることはもちろんの事、4スキルがバラバラではなく融合しているのです。例えば、Writing Sectionではreading資料読んで、listening資料聞き理解した上でwritingするといった具合です。そうした英語力はアカデミック・リサーチをしなければ付きません。ということはアカデミック・リサーチ・スキルが備わっているかどうかもチェックされるということです。冒頭に抜粋した説明文の文言もそのことを語っています。筆者のプロジェクト発信型英語プログラムでは、これら4スキルのほかにその上にリサーチ・スキルがあることを明記しています。発音・語彙・文法・意味などから成る「言語能力」は、聞き、話し、読み、書くの「4スキル」の為にあり、それら「4スキル」は実生活では「リサーチ・スキル」(筆者はプロフェッショナル・スキルと称する)(*8)の為にあると考えます。流れは次のとおりです。プロジェクトに伴う「リサーチ・スキル」が「4スキル」を使い、その「4スキル」が「言語能力」を使うという流れです。こうした流れで言語を使う事により身に付くものなのです。最後の到着点がアカデミック・セッティングのリサーチに見合う英語の4スキルということになります。

従って、筆者の英語プログラムでは『プロジェクト発信型英語Do Your Own Project in English Volume 2』(*9)のPart 1(Group project and presentation: debate and panel discussion)でアカデミック・リサーチをしてdebateとpanel discussionで発信する方法を教えています。同じくPartⅡ(Advanced project, academic writing and presentation)ではアカデミック・リサーチをしてアカデミック・ペーパーを書き、かつその成果をアカデミック・プレゼンテーションします。TOEFL iBTテストには十分対応できます。

以上まとめてみると、TOEFL iBTテストに備える英語プログラムの一実践例として、筆者が開発したプロジェクト発信型英語プログラムを紹介しました。まとめると、大学1年生の1学期に『プロジェクト発信型英語Do Your Own Project in English Volume 1』Part 1を、2学期にPart Ⅱを、大学2年生の1学期に同Volume 2 のPart 1を、2学期にPart Ⅱに沿って行うプロジェクト活動を通して、カジュアル、インフォーマル、フォーマル、アカデミック・セッティングのリサーチ・スキルを身に付けます。

前回述べた通り、こうした能力は通常の英語教育では対応しようがありません。英語「を」学習することから、英語「で」学習することに切り替える事です。学科であれ、趣味であれ、部活であれ、関心ある事柄をテーマにプロジェクトを組み、リサーチして英語で発信することです。1968年にアメリカに渡った筆者は最初に履修した2つの英文学の授業でそのことを痛感しました。多数の作品を読み、討論し、リサーチ・ペーパーを書き、発表しました。直後に受けたTOEFLテスト(TOEFL PBTテスト)のスコアは前年の520点から80点上がり600点(8割)をクリアしました。

英語圏の大学における英語で行う授業を直接体験することは相当インパクトがあり、筆者の英語プログラムはそこへの橋渡しに過ぎません。実際に、これまで多くの受講生がアメリカのトップ大学や大学院に進学しました。その大部分は筆者が慶應義塾大学在任中の受講生で、まだ手がけたばかりの未完成のプログラムでしたが、それでも効果十分であったと確信しています(*10)。

幸いな事に、今では、オンライン授業を受講すればそれに近い体験が出来ます。本コラムで以前(第88回 Nathan Harden氏の発言「アメリカの大学4,500校、50年以内に半減!」は極論か?)に紹介したMIT open coursewareはお勧めです。また、先月号(第89回 TOEFL iBT®テストに挑戦しよう(1))で触れたedX, Cousera, Udacity(*11)などは世界トップクラスの大学の教授陣が色々な科目をオファーしています。社会人を対象にしたものも豊富で従業員トレーニング・コースなどは人気です。インターラクティブなコースを選べば、オンラインで教員と受講者がディスカッションし、共同プロジェクトを行い、アカデミック・リサーチとアカデミック英語のノウハウはしっかり学べるでしょう。大学の授業が難しければ、以前(第65回 日本にいながらにしてオンライン留学を体験できる時代の到来)に述べたStanford online high school(*12)の授業などは一見の価値ありです。リサーチ・スキルが身に付く授業がオファーされています。ただし、これらのオンライン・コースは有料です。

もちろん英語プロパーを学習することも怠ってはいけません。リサーチに必要であるからです。free online English lessons(*11)と入力すれば沢山サイトが出て来ますので、自分に合うレベルを探して通学・通勤の間に学習しましょう。できるだけインターラクティブなものを選びましょう。これらの多くは無料です。

 

(*1)critical thinkingということばもよく耳にしますが、これもリサーチに関連すると思います。次号のSATのThe Critical Reading Sectionで触れます。
(*2)Kindergarten to the 12th Gradeの略称、幼稚園から高校までの教育課程を指すことばで、以前本コラム(第83回 アメリカの「高等学校卒業程度認定試験」事情)でも紹介しました。
(*3)関連して、1999年配信映画「遠い空のかなたに」(英名“October Sky”, 原作Rocket Boys)を観る事をお勧めします。貧しい町の高校生がロケット・プロジェクトを立ち上げて当時のScience Olympiadで優勝する話です。1950年代の実話に基づいており、日常の関心事を追究する為プロジェクトを立ち上げてリサーチする大切さを訴えています。
(*4)科学方法論は哲学論争と絡み複雑です。古くはソクラテス、プラトン、アリストテレスなどのギリシャ哲学者、17世紀以降は西欧のデカルト(合理主義)、カント(純粋理性批判)、ロック(経験主義)などから綿々と続き、20世紀にはソシュールに始まる構造主義、脱構築、現在では後脱構築など、ほか多数の科学方法論をめぐる議論が展開されています。今後も、文系理系全領域の知見を融合させた学術研究の基盤を創世する先端分野として変貌していくでしょう。
(*5)“A generative semantic analysis of the English modals”(Nathanael Yuji Suzuki. 1978. University Microfilms International, Ann Arbor, Michiganにて所蔵, 登録番号7901787)。ちなみに、アメリカの大学院で書かれた博士論文は全てUniversity Microfilms Internationalに所蔵されています。
(*6)『プロジェクト発信型英語 Do your own project in English Volume 1』(鈴木佑治、2013,南雲堂)
(*7)The Core Program, Harvard University(http://isites.harvard.edu/icb/icb.do?keyword=core
(*8)筆者はプロフェッショナル・スキルと命名。詳細については(*9)に掲げた2点の拙著を参照してください。
(*9)『プロジェクト発信型英語 Do your own project in English Volume 2 』(鈴木佑治、2014, 南雲堂)
(*10)詳細は本コラムバックナンバーおよび、拙著『 英語教育グランドデザイン- 慶應義塾大学SFCの実践と展望』(鈴木佑治、2003,慶応大学出版)『グローバル社会を活きる為の英語授業』(鈴木佑治,2012,創英社・三省堂)を参照してください。
(*11)MIT open courseware(http://ocw.mit.edu/index.htm),edX(https://www.edx.org/about-us), Cousera(https://www.coursera.org/),MOOCs(http://moocs.com/),
Udacity(https://www.udacity.com/
(*12)Stanford Online High School(https://ohs.stanford.edu/

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