For Lifelong English

  • print
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 鈴木佑治先生
  • 立命館大学生命科学部教授
    慶應義塾大学名誉教授

第61回 Global Englishで発信しよう

かつて、フランスでは外国人が英語で道を聞こうものなら無視されたものですが、そんなフランスの大学でも最近になって、英語で授業を行うという動きがあり、そのための法案が国会で審議されているようです。そうでもしないとかつてのように国内外から学生を集めるのは厳しくなってきたというのが背景にあるようです。国連の公用語でもあり国際的名声をほしいままにしたフランス語が、グローバル社会のメガ言語の地位を英語に明け渡したことを自他ともに認めてしまうというのでしょうか。グローバル・メガ言語はあらゆる言語から語彙・表現を受け入れる許容力と柔軟性を兼ね備えていなければなりません。概して、外国語からの借入語(loan words)のほとんどは、動詞、名詞、形容詞などの内容語(content words)で、助詞や冠詞など文法的機能を持つ機能語 (function words)はごくまれです。どんな言語も相当数の内容語を保有しているので、世界の全言語の内容語を集めると想像を絶する数になります。グローバル・メガ言語は文法構造上それらを許容する柔軟性と簡易性を持たなければなりません。

フランス語は、名詞、形容詞、動詞の活用をはじめ、かなり複雑な文法構造を守り続けてきました。名詞が男性名詞と女性名詞に分かれて活用するのはその一例です。外国語から名詞を入れる場合は男性名詞か女性名詞に分けなければなりません。英語にはそのような区別は無いので、ほかの言語からおびただしい数の名詞を導入し続けてきました。英語に無い語彙・表現があれば他言語からどんどん取り入れるバイタリティーに富み、語彙数が増えて世界中の事象を表現でき、グローバル・メガ言語としての地位を築いていったのです。実は、英語も古代英語や中世英語までさかのぼるとフランス語に劣らぬ複雑な文法を持っていたのですが、近世英語ではそれらを失って現代英語に近い形になりました。不規則動詞(例 go → went, gone)や名詞の数の不規則形(例 ox → oxen)などが古代英語の文法の名残をとどめているにすぎません。外来語に対処するために動詞(過去、過去分詞形の-ed)、名詞(複数形の-s/-es)、形容詞(比較級-er 最上級-est)などの規則変化で外来語に対応する汎用的メカニズムを内蔵したのです。

英語も古代・中世英語の煩雑さを残したままではメガ言語にはなり得なかったでしょう。有史以来、ギリシャ、ラテン、フランスの言語と文化に追随する時代が長く続き、フランス語、ギリシャ語、ラテン語の語彙・表現を導入する過程で複雑な文法構造を削ぎ落として外来語を受け入れる仕組みを内蔵したのです。英語が覇権を持っていたからではなく、持っていなかったことが生んだ結果なのです。英語がグローバル・メガ言語になったことを示唆する卑近な例を紹介しましょう。先日、伊勢神宮が英語案内を改訂する際に、祀られている「神」をGodではなくKamiと表記するというニュースを耳にしました。日本文化の「神」は、字義的にも文脈的にも西洋的なGodとは異なるからというのがその理由です。

その話に関連して、先日イリノイから来たアメリカの生物学者と琵琶湖のブラックバスの被害を話していたところ、逆にイリノイ州の河川で異常繁殖しているアジアの外来種carpを駆除する様子を映した動画を紹介されました(参照:【Redneck Fishing Tournament 2011 PART 1:YouTube】)。しかし、その鯉とやらは、大型で獰猛そうで日本でよくみかける鯉と似て非なる別種の鯉科の魚です。そこで、はたと気がつきました。日本の鯉をcarpに訳してしまうと錦鯉のような温厚で美しい鯉のイメージが壊れてしまいます。日本の鯉の生産者は、carpではなくkoiやnishiki-goiという語を使って英語で宣伝したほうがよいでしょう。もっともkoi は既に英語の語彙になっているかもしれません。

グローバル英語の世界は、各言語の話者が、既存の英語の語彙・表現を吟味して表現できない事象があるとしたら、それぞれの言語の語彙・表現をそのままアルファベット表記して情報発信すべきです。その意味するところは実際に見て触れてもらうことにより理解されます。インターネットなどでの使用頻度数が高まれば、グローバル英語の語彙・表現として認められるでしょう。そのためには、個人、団体が自主的に英語で情報発信する以外に道はありません。英語は少しぐらいおかしくても、五感に訴える非言語表現方法を併用すればなんとか通ずるものです。人の興味を引くのは英語ではなくコンテンツです。関心を持ってくれる人と交流するうちにコンテンツも英語力も向上します。TOEFL®テストやTOEICテストなどのスコアもぐんと伸びます。慶應大学SFC(拙著『英語教育のグランド・デザイン:慶應義塾大学SFCの実践と展望』2003参照)と立命館大学生命科学部・薬学部(拙著『グローバル社会を生きるための英語授業』2012参照)での教育体験を基に確信を持って言えます。

【参考著書】
英語教育のグランド・デザイン:慶應義塾大学SFCの実践と展望』 慶應義塾大学出版会
グローバル社会を生きるための英語授業』 創英社/三省堂書店

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。