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For Lifelong English

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様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかかわって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。

第42回 For Lifelong English
– 嘉悦大学 学長 加藤寛先生に大学改革のお話を聞く その1

加藤 寛先生

加藤 寛先生プロフィール
大正15年、岩手県生まれ。
経済政策の理論と実践における日本のリーダーとして、国鉄を始めとする3公社の民営化に携わるとともに、10年にわたり政府税制調査会会長を務める。
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス開設準備に関わり、1990年初代総合政策学部学部長に。
その後1995年から12年間、千葉商科大学学長を務め、両大学において“カトカン”と親しまれ、大学改革を進めた。
2008年4月、嘉悦大学学長に就任。

鈴木 佑治(聞き手)

聞き手:鈴木 佑治先生
立命館大学生命科学部生命情報学科教授
慶應義塾大学名誉教授

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでの取り組み

鈴木佑治先生:
加藤先生とは、慶應義塾大学で湘南藤沢キャンパス(以下SFC)を立ち上げる時に、呼んでいただいてからのご縁です。それまでは同じ経済学部に在籍しながら、先生は雲の上の方でしたので、お話していただけるなど考えたこともありませんでした。でも、SFCがご縁で先生にお目にかかる機会が増え、先生はどなたとも気さくにお話なさる、それはそれは優しい方であることが分かりました。
SFCを立ち上げ、1年生が入ってくるにあたり、加藤先生がこんなことをおっしゃっていたのを覚えています。SFCに「学」があるとしたら、「総合政策学」と「環境情報学」であり、あとはすべてそれぞれの人が自由に論ずることで生まれる「論」であるべきと。総合政策学とは何か、環境情報学とは何かをめぐり、加藤先生ご自身も率先して、全くの白紙の状態で論じながら問題を発見しようということだったと思います。学生からもいろいろな「論」が出てきて、SFC全体に「自由」な雰囲気が漂っていました。学生にとって加藤先生は「自由」を象徴する指導者でした。
加藤寛先生:
いや僕はね、自分で自分の教育プログラムも書けない当時のやり方に、こんなばかな話があるかという想いがありましたから、それがSFCの理念になったといいますか、SFCは自由にやるんだということで始まりました。とにかく人にわからないことをしゃべってもしょうがない。人にわかるようにしゃべらないとだめだということは、私の頭の中にずっとあったんですね。だから学術用語を使うことが教育ではなくて、もっと自由に自分の言葉で話すようにならなければだめだと思っていました。

鈴木佑治先生:
英語もそうですね。
加藤寛先生:
そう、英語でも同じことです。もちろん英語の先生は何人かおられたのですが、改革する方向性が全然出てこない。今の教育をいいと思って改革しない人は役に立たないと思っていたら、鈴木先生が改革の旗振り役として出てこられた。これはもうぜひお願いしたいと思って引っ張り込みました。
それで、鈴木先生はどういうところが違うのだろうかと思って、お聞きしたんですよ。そうしたら、英語の全然しゃべれない学生を集めて、自分の経歴などを、自分が知っている英語をつかってしゃべればいいとおっしゃる。いや、そんなこと、今まで聴いたことがない。私も学生時代から英語の教育を受けていましたけれども、きれいな英文を読むことばかりを教えられた。きれいな英文というのは自分では作れないんですよ。だから教科書をいくら暗記しても人真似に過ぎない。自分の言葉で自分を語るなんてことはできない。そんな方法があるなら、何で自分の時にそういう英語教育をしてくれなかったのだろうかと、私は随分思いましたよ。中学校の時にも、僕を教えてくれた先生で結構うまい方がいらしたんですよ。だけど自分の言葉でしゃべろうということを当たり前にしてくれる先生はいなかった。自分の言葉でしゃべると笑ったり、ばかにされる。だから全然英語をしゃべれない学生が、自分の持っている英語でとにかく何かを表現しようという、そんな教育があるのかとびっくりしました。
鈴木佑治先生:
先生ご自身が自由に話をして自分の言葉で語られている、そういう理念でSFCを始められたことから、私のそんなやり方を許可してくださったのではないでしょうか。そんな自由な教育を理念としている時に、私たち英語教師が英語を輪切りにして、これを教える、これを習えばいい、などというのはあまりにも小さく見えました。それなら、私たちも言語というものを、一度白紙にしてゼロから始めようと。教師が英語を教えるということではなく、学生が英語を学ぶということは一体どういうことなのかを考えさせていただいた機会でした。そうすると、改革というのは、やっぱり自分自身の中からしか出てこないということと、教師が自分の好きなことを学生に押しつけたところで何も出てこないと思ったのです。とにかく、まずは学生が好きなことを言わせてみる。好きなことについて話せない人は多分いないと思うのですね。それも英語ができるようになってから言うのではなくて、好きなことを語りながら英語ができるようになればいいんじゃないかと思ったのです。
加藤寛先生:
そう、それがすごいなと思って感心したの。

鈴木佑治先生:
とかく英語教育というと、我々の場合は言語学をベースにした話をして、その理論をこねて、方法論を考えて教えようとする。だから学生はいやになってしまう。そんなことはどうでもよくって、学生にとっては英語を楽しく話せるようになればいいわけですよね。
加藤先生の言われたことでもうひとつ、非常に印象的に覚えているのは、道路一本つくるにしても、いろいろな人や、いろいろな省庁、そしていろいろな学問が絡んでいる。だから学問は縦割り型のものではだめである、ということです。学生が好きなことをやって追求していくと、いろんなものに絡んでいて、そこに私の専門の英語があったり、加藤先生のご専門の経済もあったりする。そして周りの人たちもそのことに関心を持つようになる。SFCで「総合」という言葉(概念)をお考えになったのが、こういった点につながるのかなと思っています。
加藤寛先生:
そんな壮大な理念があったわけではないんですよ。新しい時代を作るためにと考えていました。鈴木先生の発想こそ、私にとって理想でしたね。
鈴木佑治先生:
いえいえ、あの頃44、45歳の何を言い出すか分からないような若造だった私を、いつも信頼してくださったからできたことだと、今でも思います。我々は自由にやらせていただきました。本当にありがたくて、私にとって加藤先生こそ理想のリーダーでした。しかも私のやり方というのは、実はその頃加藤先生がテレビ番組で経済解説をしておられて、私たち素人にもわかりやすいように経済のことをお話していたのを真似たんです。1980年代のバブル絶頂期に、そのお金がどこへいったのか分からないような時に、加藤先生は経済学の権威でいらっしゃったのに、私たちに話すときにはあえて専門用語を使わず、日常的な言葉でわかりやすく話しておられました。私の英語の授業には、加藤先生の研究会の学生もいて、加藤先生はとてもわかりやすく教えてくださると言っていました。自分の言葉で経済を話すことができる、そういう学生を、加藤先生は多数お育てになっています。

鈴木佑治先生の付記

慶應SFCに赴任する前の慶應経済学部時代には、私が英語を教えた学生諸君の中に、超難関ゼミと定評があった加藤寛先生のゼミに進んだ人達がいます。先生のゼミ生は、みな優秀だと聞いておりましたが、私が英語を教えたこの人達もすこぶる優秀で、卒業後は海外で大活躍しています。その内のお一人の女性は、現在は経済学者として、英国の大学で教べんをとっています。

–「嘉悦大学 学長 加藤寛先生に大学改革のお話を聞く」–全3回
100号– 「嘉悦大学 学長 加藤寛先生に大学改革のお話を聞く」 その2
101号– 「嘉悦大学 学長 加藤寛先生に大学改革のお話を聞く」 その3

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