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For Lifelong English

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様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかかわって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。

第28回 Lifelong English – ニューオリンズ・ラスカルズのジャズメン人生 その2

鈴木 佑治(聞き手)

鈴木 佑治 先生
立命館大学生命科学部生命情報学科教授
慶應義塾大学名誉教授

川合 純一氏

川合 純一氏
ニューオリンズ・ラスカルズのバンジョー、ボーカル担当

83号 – 鈴木先生のラスカルズについての寄稿
http://www.cieej.or.jp/toefl/mailmagazine/mm83/reading-01.html

84号 – ニューオリンズ・ラスカルズのジャズメン人生 その1
http://www.cieej.or.jp/toefl/mailmagazine/mm84/reading-01.html

ロゴ

【ニューオリンズ・ラスカルズ近影】

河合良一さん(クラリネット、リーダー)、志賀奎太郎さん(トランペット、ボーカル)、福田恒民さん(トロンボーン)、川合純一さん(バンジョー、ボーカル)、尾崎喜康さん(ピアノ)、石田信雄さん(ベース)、木村陽一さん(ドラムス、ボーカル)
ニューオリンズ・ラスカルズのWebサイト

音楽も英語も耳から

川合:
もう僕たちの音楽は聞いてくださったということだけど、僕、英語なんかメチャクチャですよ。
鈴木:
あれがいいんですよ!
川合:
いや、ジャズ・ミュージシャンいうのはいわゆる感情でしゃべってますから、失敗もあるんですよ。ボキャブラリーはないし、もう単語はめちゃくちゃ。だから僕はたぶん中学一年生程度の英語レベルしかないですよ。
鈴木:
その英語で充分。それでいろんな表現ができますよね。
川合:
ジャズというテーマだけの話ですよ。向こうのミュージシャンの話も、聞くのはよくわかるんですよ。ヒアリングはよくて、簡単な英語でこれなら自分もってね。ただ、早口で言いますから、もう少しゆっくり言うてくれたら、ものすごく鮮明にわかります。ジャズの話だったら一応知っている名前が出てきますから。だから僕のやり方は、まず自分の知っていることばっかり、わあっと言ってまうんです。そうしたら会話のテーマが自分の得意なものになるじゃないですか。ほんなら自分もそん中にいれる。ずっと黙っていたら知らないテーマが出てきて、自分がどんどん入れなくなるから、とにかく自分の得意なテーマを先にどんどん入れちゃうんですよ。そういったたぐいが僕のしゃべり方。もう勝手なしゃべり方や。ただね、ニューオリンズの黒人の英語はクセがあってわからないから雰囲気で話してます。そんなんだから、私のしゃべり方なんていうのは、その辺から生えてきたんかなって思うんです よ。
鈴木:
音楽をされているので、おそらく耳が普通の人以上に良いからでしょうか。
川合:
そうそう、多分そうだと思うんですよね。やっぱりヒアリングから入っていったんですね。
鈴木:
音楽も英語もヒアリングからですね。
川合:
やっぱり言葉が黒人独特で、ルイス・ネルソンとかトランペット、ドラムの人なんかもカチカチですからね、全然わかりません。でもわからないけれども、言う事を毎日聞いてたらね、やっぱりわかるようになるんですよ。ベイビーでもそうでしょう。聞いていたら言葉がわかる。この感覚ですよ、気さくにしゃべれるようになったのは。

ブルースのある英語

鈴木:
ジョージ・ルイスが来日した1963年の話に戻りますと、大阪では毎日演奏を聴きに行ったり、話しをしに行ったりしたんですよね。
川合:
そう、でもその時は片言の英語しかしゃべれませんでした。字引きは持っていましたけれど、字引きを引くひまはないんですよ。
鈴木:
日本で勉強している英語では、そういうところではほとんど通用しませんよね。
川合:
テンポ良くしゃべっているのに、主語からちゃんとしっかりしゃべろうとか考えてたら、時間かかって会話の中に入っていけないじゃないですか。だから“I am~”なんてちゃんと主語はなくても、もうどんどん入っていきます。
鈴木:
そうして意思疎通をはかりながら、加えて、音楽でも通じ合うというわけですね。
川合:
だから僕の英語は感情的な英語ですね。省略して省略して目的語だけポーンと出して、その後は“You know”とか“I mean”とか“I know”とかでついていく。そういう言葉はよう使いますね。それとこんなこと言ったら申し訳ないけど、ニューオリンズ・ミュージシャンは教育を受けていない人ばっかりなんですよ。たまに字をよく書けない人もいますし、当然英語はわりとめちゃくちゃで、よくしゃべるのは生活に関することです。その中に僕たちは入りまして、ずっとそんな感じで今まで来てるから、ホンマにブロークンなんですよ。それでも木村さんはアメリカに2年留学していますから、彼が基本的には一番しゃべるのはできるんですけれども、彼曰く、僕の英語には勝てんと。いや、僕には理由は良くわからないんですけれども、感受性だけのもので考え込んでしゃべってないから、それがかえっていいのかな。もちろん木村さんの方がぜんぜん上ですから、電話なんかだと僕らはしゃべれないですよ。でも僕の場合は目の前に人がいて、その人に伝えるための話は出来る。だから僕はこれで充分満足していますし、それで楽しいですしね。やっぱりそういう絶妙なジャズ・ミュージシャンの英語、会話っていうのが僕は素晴らしいと思っているんですよ。
鈴木:
なるほど。恐らくそういった会話を通じて、ニューオリンズのスピリットやブルースが、大阪に根付いたんですね。どこかぴったり合ったんでしょうか。
川合:
いわゆる生活に密着したものとしてね。
鈴木:
ニューオリンズのミュージシャンたちもずっと虐げられたところにいて、日本も戦争に負けて貧しい生活をしました。それを感じながらもはねのけようとする川合さんをはじめとする当時の若者たちの気合と言いましょうか気迫といいましょうか、どこか共通するブルースのようなものがあったんでしょうか。私もそんな若者の一人であったわけですが。川合さんたちが彼らの音楽にすごく共感したのと同様に、多分、川合さんの英語の話に彼らが共感するブルースがあったのではないでしょうか。
川合:
そんな英語じゃありませんって(笑)。

口羽:
いや、僕は英語のことはわからないけれども、今おっしゃっていることを聞くとね、彼のバンジョーも一緒なんです。川合さんのバンジョーを僕はいつも聞いているから、彼のバンジョーが当たり前と思っていて、他の人のバンジョーを聞くとブルースがない。彼は結構演奏ミスもあるんですけど、それがブルースになる。間違うことがまたいいんですね。それはやっぱりニューオリンズ・ジャズのミュージシャンやなって思います。
川合:
正確さっていうのは、そらもちろん大切なんですよ。でもね、その時の状況に合わせていくということも、大切なんです。まずは相手を見て、その立場をちゃんと尊敬して、それでいかに楽しもう、会話をちょっとでも楽しもうとする。そうなると、あんまり難しいことは言えませんわね。今ここに来るまでにこんなことがあったとか、その場のことですよね。今日もそうやったんですけど、タクシーに乗ったら間違った方に行っちゃったんですよね。もちろん僕の言い方も悪かったんですけど、そういう時言った言わんという話になるけれども、でもその間にタクシーの運ちゃんといろいろ会話できて、やっぱりね、楽しかったんですよ。こんな風にミュージシャンっていうのは楽しむことから入っていくんですね。特に外国の人っていうのはホンマに長いこと、とにかくしゃべりますよね。それも聞いてて面白い、これはすごいなと思う。昔の人、例えばルイ・アームストロングにしても、ワーワーワーって勢いでしゃべるんですよ。それはなんでやろって僕は不思議やなぁって思って。
鈴木:
彼らにとってはおそらく音楽も会話だったと思うんです。ミュージシャンというのは音楽でも話しちゃう。例えば1800年代は、黒人がちょっとでも何か言うと制裁を受けた時代です。それを避けるためになるべく白人に分らないように話したり、音楽を通して話す術を見つけたのではないでしょうか。今、川合さんが言われたように、その日、その時、その場の気分、悲しいことや楽しいことをそのまま音にぶつけて表した。「まずは俺の気持ちをこの演奏でくんでくれ」という思いがあり、それに言葉をかぶせたのだと思います。ミュージシャンの気持ちをくめるのは、やっぱりミュージシャンでしかないんじゃないかなと。BBCが制作したブルースの発祥についての番組で、B.B.キングは、「ブルースというのは会話なんだ」と繰り返し言っていました。
川合:
そうですよ。そうです。
鈴木:
「誰だってブルースを持っているんだ、フィーリングを表現するんだ、それをそのまま表すのがブルースだ」とB.B.キングは言っています。たぶん川合さんもそうですよね。
口羽:
そうですよ。彼は大阪で一番ブルースを表現できるミュージシャンの一人ですから。
川合:
いやぁ(笑)。言おうとしたのは外国の人はいかに会話を楽しむかということなんだけど。オバマ大統領もそうでしょう、うまいじゃないですか。冗談を言うからね。そういうことはホントはしょうもない話なんです。でもホンマに話って自然に楽しくなるもんやと思うんです。日本はやっぱりね、家に客を入れないでしょう。絶対に外でご飯を食べるでしょう。部屋が狭いとかそれは関係ないですよ。要は嫌なところを見られたくない、とかそういうこと。ホンマの付き合いじゃない。一番最高の接待は、家でご馳走なんですよ。会話でも絶対同じ事と思いますよ。なんかきれいごと言わなあかん、正確に言わなあかんって思うんですかね。英語の場合はね、少々文法が間違ってても、正確にならんでも、細かいことはわからんけど向こうの人は何言うてるかわかるんです。そら、正確に言うのは100%にこしたことはないですよ。でも時間たったら話も変わってくるから。
鈴木:
川合さんは大阪生まれの大阪育ちですよね。
川合:
こてこて(笑)
鈴木:
そうですよね。僕はアメリカに10年いましたけどね、その間、大阪の人にも会いました。彼らはそのままアメリカ社会に入っていきましたね。東京の人は構えてしまうから、なかなか入れずにはじかれてしまうことがよくあります。特にニューオリンズとかメンフィスとか南部の情の深い場所に行くには、大阪のこてこてのおばちゃんみたいな人が向いてますね、そのまま入っていけるから。土壌がそっくりなんじゃないかな。ニューオリンズ・ジャズが大阪に根付いたって言うのはそういう背景もあるんでしょうかね。ナッシュビルやメンフィスにも大阪出身のカントリー・ミュージシャンが活躍していたのを覚えています。フィドル奏者の方だったような気がします。

英語学習の本質は「楽しい」こと

川合:
僕は中学の英語の先生が日本人っていうのがそもそも間違ってるんじゃないかと思って。会話の場合はやっぱりちゃんと外国人じゃないと。外国人の先生が冗談ばっかりで面白かったら、生徒は興味を示すじゃないですか。授業を楽しくすること、それがやっぱりポイントですよね。ですから本を読むのは基礎なんやけれども、その前に、これは向こうの子供の本やねんとか、そうやって興味を持たせたらわかるやないですか。
鈴木:
私も思うに、やっぱり言葉っていうのは音楽やスポーツと同じで、楽しくなくちゃ。
川合:
体で覚えないとね。
鈴木:
音楽や言葉、スポーツは楽しくなきゃダメですよね。楽しいからやりたくなる、しゃべりたくなるっていう風にしないと。楽しくてやるから友達が出来て、英語を話す機会も増える。増えれば話すからさらに英語も上達する。そういうのが日本の英語教育に欠けているような気がするんです。
川合:
僕は言葉のことはよくわからないんですけれども、楽しい授業をやったらそれでいいと思うんですよね。子どもは外人さん来たら楽しみますよね。外人さんは子どもに対してなんか独特のノウハウを持ってるから。この前ドイツのクラリネット奏者のトーマスが2、3日こちらにおったんですが、昼間に大阪城を廻ったらしいんですよ。そんならちょうど小学校の記念撮影をやってたんですね。あんなん外国にないから、トーマスも写真を撮らせてもらったらしいんですよ。トーマスがどう言うたか知りませんよ、でも子どもたちが笑ってる写真を持ってるんですよね。ちょっとひとこと子どもたちに言うたら、みんなハローハロー言うねんて。ハローって言葉だけでいいんですよね。
鈴木:
私は言語学を研究してきましたが、川合さんのお話から言葉の本質とは何かを改めて実感しました。今の英語教育において欠けているものを、川合さんが言ってくれました。大切なことは「楽しい」という感覚ですね。自分の好きなこと、楽しいと思うことをしながら言葉を使い身につけていくのが一番です。英語でも何語でもよい、勉強ではなく友達を作りさえすれば、その言葉を使っておのずと話すようになる。また、言葉だけじゃないということですね、言葉だけでは全てのことを表現できませんから。だからラスカルズのみなさんは言葉を超えた思いを音楽で表現し、その上で言葉でも交流しているわけですよね。そのようにして、世界中のミュージシャンとお付き合いが長く続くのでしょう。その人その人の人格がにじみ出てこなければ、どんなに立派な英語を話しても友達はできません。その場その場に合う言葉や話し方でなければ疲れますし、長続きはしません。今、私は立命館大学で、その前には慶應義塾大学で教えていましたが、そこで感じたことを言いますと、英語が出来ない人は英語ができないからではなく、それを使って表現するものがないということです。表現するものがあれば、中学校で習った英語で十分表現できます。音楽が好きな人は、好きな音楽について調べたことを英語で発表してもらう。野球部の学生には、野球活動を英語で発表させる。こういう学生が、アメリカ遠征に行くと向こうの野球チームのメンバーとすぐ友達になるんですよね。それに伴い野球もうまくなり、卒業後はプロになり活躍した学生もいます。怪我して引退しましたけど、広報部に入り文化としての野球を伝えたりしている。やはり楽しくないと何事も長続きしません。私がOJDCに入会したのは、ジャズを聞くのが好きなだけなのですが、川合さんたちはジャズに生きている、だから長続きする交流の輪が世界に広がっているのでしょうね。

「音楽に国境なし」
【1985年 神戸ジャズストリート出演のミュージシャンたちとニューサントリー5にて】

川合:
僕たちが幸せっていうのはほんまにこの音楽に出会ったから。全世界の仲間を僕はジャズ・ファミリーと呼んでますけれども、今はもうメールでポーンとやりとりしますけれど、昔は手紙を書いて、それが返ってきて、そのうち日にちも変わってなんてやってました。でも、みんなファミリーや恋人に手紙を書くじゃないですか。そういう気持ちは今でも同じなんですよね。それと同時にね、この音楽は生活のためにやっているのではなくて、なんていうかな、生活から出ている、生活の中でジャズが歌われているんです。ポイントはリラックス。自然のままでいれるという。だから賛美歌と同じなんですよ。メロディをいかにキレイにじゃなくて、いかに伝えるかなんですよ。そういう意味でニューオリンズ・ジャズ演奏の仕方は、自然だから人の心をつかむんですね。だから僕たちがこの音楽を続けているのは、最高に自然だから。ホンマの話、音を続けていってもね、何も無理せんといられて、それでいて友達が出来て、いろんなことが楽しめて、すごく幸せで。だから余計に大事にして、大事にするからいろんなところに広がる。ま、そういうわけですごく楽しいんですね。
鈴木:
生きている限り、生涯現役ミュージシャン!
川合:
そう!それとやっぱり、相手を尊敬しないとダメですね。まずは相手があってですから。相手の立場、それは音もそうですよ。彼がどんな音を出していて、自分はどのポジションか。最適な場所を見つけて、いいものを作っていくと。
鈴木:
音楽もコミュニケーションも一緒ですね。

鈴木の感想

一度きりの人生ですから、良いことであれば好きなことを一生し続けられたらなんと幸せなことでしょうか。川合さんはそういう恵まれたお一人でしょう。ニューオリンズ・ジャズを極められ、そのことにより人の輪が生まれ、コミュニケーションのネットワークが生まれていく様子を伺いました。皆さんも、その原動力というかダイナモとなった、ニューオリンズ・ジャズを一度聴いてみるとよいでしょう。大阪でいう、「ホンマ・モン」ですよ。

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