TOEFL Mail Magazine Vol.57 May2007
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SHLHi校の試行錯誤



それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「地域の小学校・中学校・大学及び海外姉妹校との交流を中心とした、英語の効率的かつ効果的な指導方法の研究開発」というテーマに果敢に取り組み、英語力の向上に大きな成果を挙げられた、大阪府立長野高等学校の東谷保裕先生から、ご寄稿を頂きました。



SELHiを終えて:提言
大阪府立長野高等学校 英語科 東谷保裕
東谷保裕(ひがしたに やすひろ)先生 プロフィール

東谷保裕(ひがしたに やすひろ)先生大阪府生まれ
甲南大学文学部英文学科卒業
大阪府の高等学校英語教諭として勤務して今年で22年目。現在長野高校勤務 今年度より国際部部長。
2004年4月〜2007年3月文部科学省スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)第3期指定校・大阪府立長野高等学校における研究主任。
2006年3月「『英語が使える日本人』の育成のためのフォーラム2006」における模擬授業で高い評価を得る。
地域の小・中学校や大学における教員対象の研修会や英語教育に関する各種研究会等で精力的に発表やワークショップを行っている。


 長野高校では、平成16年度から18年度まで、文部科学省よりSELHiの指定を受け、「地域の小学校・中学校・大学及び海外姉妹校との交流を中心とした、英語の効率的かつ効果的な指導方法の研究開発」というテーマで様々な研究開発を行ってきた。
 テーマが全国的にも珍しい「地域連携」であったため、いわゆるSELHi先発校の成果を参考にすることができず、研究当初はまさに暗中模索の状態の中、教員間のSELHiに対する「温度差」もあって苦悩する日々が続いた。文部科学省による1年目の視察の際には、「行事ばかりで総花的」、「授業が見えない」などと酷評され、忙しいながら精一杯頑張ってきた教員一同奈落の底に突き落とされるような気持ちであったことを今でも鮮明に記憶している。
大阪府立長野高等学校 SELHiの取組 
このような苦境から脱し、同僚の教員が「一輪の花が咲いた」と評してくれた、文部科学省主催の「『英語が使える日本人』の育成のためのフォーラム2006」での公開模擬授業や、本校報告書(長野高校ホームページに掲載)に記載しているような、様々な授業や地域連携の成果を最終的に残すことができたのは、皆が大きなプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも決してそれから逃げることなく、SELHiに向き合い続けたからではないだろうか。それは、教員それぞれがこの3年間苦しみながらもより良い授業を求め、自分自身、そして生徒に向き合い続けたということに他ならない。昨年教育実習に来た卒業生がそろって「長野高校の授業は変わりましたね。今の生徒が羨ましいです」 と恩師である担当教諭に話していたのはとても印象深い。正直幾度となく難破しそうになりながらも、SELHiの荒波にもまれるうちに、教員それぞれが強くなり、授業も変わっていった。SELHiは、私たちに自分自身の授業を見つめ直し改善する貴重な機会を与えてくれたのだと思う。
【写真:「『英語が使える日本人』の育成のためのフォーラム2006」】
 
私は、この貴重な紙面をお借りし、SELHi3年間の経験をもとに、英語教育の改善に向けた幾つかの「提言」をさせていただきたいと思う。


1. ネットワーク作りの必要性:SELHiのさらなる普及とポストSELHiに向けて

 上にも書いたように、SELHi1年目を終え自信をなくし、進むべき方向も見失い、途方に暮れていた時、私たち教員に力を与えて下さったのは、運営指導委員をはじめ全国のSELHi校の先生方であった。特に年度末のお忙しい中講演に来てくださり、英語科の教員を熱く励まして下さった、当時米原高校の山岡先生の言葉は忘れることができない。山岡先生は、横浜の公開模擬授業前日のリハーサルにも、嵐のような天候にもかかわらず来て下さり、緊張で押しつぶされそうになっていた、私や生徒たちを温かく励まして下さった。もし山岡先生との出会いがなかったら、長野高校のSELHiと模擬授業の成功もなかっただろう。
 SELHiが持つ大きな魅力は、今まで出会うこともなかった他府県の学校や大学の先生方と知り合い、そこから学ぶことができる点である。この3年間私たちは本当に多くの先生方と出会い、数知れない程多くの刺激や授業のヒントをいただいた。しかしながら、制度としてのSELHi校間のネットワークはなく、SELHi終了後は自ら求めて行かない限りいかなる情報も入ってこないのが現状である。
 「『英語が使える日本人』の育成」を目的として2002年から始まったSELHiは、今までに予想以上の大きな成果と可能性を示してきた。しかしながら、報告書の煩雑さなどSELHi研究のネガティブな面だけが広く流布・強調され、多くの先生方の汗と努力と、時に涙によって生み出されてきた貴重な成果がまだ一部の学校に留まり、全体として共有されていないのは残念でならない。
 地域によってはポストSELHiの取り組みやSELHi校のネットワーク作りが始まっていると聞くが、今までの貴重な成果を埋没させることなく、SELHi以外の学校も含めてより多くの学校に伝えていくためのネットワーク作りがこれからの急務であることは間違いない。SELHiに携わった者として、微力ながらネットワーク作りに協力ができればと思う。


2. SELHiを経験した高校生・大学生の活用を

 上に書いたネットワーク作りは、教員の立場からの情報・成果の普及であるが、SELHiの中で育ってきた生徒からSELHiの成果を広めることも考えるべき有効な1つの手段である。長野高校では、枚方市立枚方中学校の中野雅央校長より依頼を受け、横浜での公開模擬授業に参加した生徒3名を枚方中学校に派遣し、スキットなどを通して英語によるコミュニケーションの楽しさや、英語学習の方法などを中学生に伝えることを行った。その3名の生徒は卒業してすでに大学生となっていたが、SELHiを通して学んだことを、中学生に直接伝えてあげたいと私たちの依頼を快諾してくれたのであった。
 中高連携等の一環として、SELHi校に在籍する高校生が、地域の中学生により身近な存在の先輩として様々な指導を行うことは、中学生にとって英語学習の良い動機付けになることは間違いない。長野高校では、他にも中学校とのテレビ会議授業や出張公開授業時の交流などを通して、本校生と河内長野市内の中学生、時に小学生との交流の機会を設けてきたが、その時の生徒たちの目の輝きを忘れることができない。同様に、SELHiを経験した大学生がインターンシップや教育実習などを通して母校や地域の異なる校種の後輩たちに自らの経験や学習方法を教えることは、非常に効果的なSELHiの成果の普及になるのではないだろうか。先生方が情熱を注いで育て上げられた生徒たちが、貴重なSELHiの成果をさらに広める大きな力となることを期待したい。


3. 地域・校種の壁を破る:グランドデザインを描く時

 大阪府立長野高等学校 SELHiの取組長野高校におけるSELHi3年間の大きな収穫の1つに、地域の学校との信頼関係の構築が挙げられる。SELHi指定以前にはなかった、相互の授業見学や公開授業・研究協議、そして河内長野市を挙げて取り組んだイングリッシュフェスティバル(市内スピーチコンテスト)や出張ワークショップなどを通して、地域の学校の先生方と様々に交流する機会を持つことができた。小学校における先進的な英語教育の取り組みで全国的に有名な梅本龍太教諭は、本校の地域を巻き込んだ取り組みに対して「学校のカベ」を打ち破ったと評して下さった。【写真:河内長野市イングリッシュフェスティバル】
また次のようにも述べておられる。
 「長野高校の働きかけのおかげで様々な「カベ」が打ち破られてきたようです。そして、これからその「カベ」の向こう側に新たな「創造」が存在するはずです。3年間という指定は1つのくくりであって、本当に面白いのはこれからではないでしょうか。最後に、11年前、私と当時のNETとの会話を、感謝と希望の気持ちを込めて記したいと思います。」
“Our curriculum is like a baby. We have to help it grow!!”

 真に「『英語が使える日本人』の育成」をめざすならば、小学校、中学校、高校そして大学がカリキュラムや指導方針について情報交換しながら議論する必要がある。昨年実施した本校SELHi最終年度研究発表会のパネルディスカッションにパネラーとして参加して下さった、関西大学の齋藤英二先生は、小・中・高・大学にまたがる「グランドデザイン」の必要性、すなわち、従来異なる校種間で断絶していたカリキュラム・シラバスを含め、少なくとも6・3・3年の計12年間、あるいは大学まで含めた16年間を見通した英語教育の効果的なあり方について検討することの必要性を強く説かれていた。
 同じ目標のもと、地域の教員が校種や地域の「カベ」を打ち破り力を合わせて頑張ることが、生徒の英語力、ひいては学校のそして地域の、最終的には日本の英語教育力を高めていくことにつながるのだと思う。


4. 『進学校』・『受験英語』という免罪符からの決別を:人が作る教育

 ただ、いくら素晴しいカリキュラムやシラバスを整えても、また教室を最新の設備で埋め尽くしても、そこに、生徒と真正面から向き合い、様々に苦悩し試行錯誤を繰り返しながらも、生徒の意識を変革し、いかに本当の英語力をつけさせるかを考え続ける教師がいなければ、大きな成果は期待できない。 
 研修会で一緒になったある先生が、「私のところの生徒たちは、『受験英語』に興味があるので、音読をさせてもほとんど声が出ません。まして英語を使って授業をすることなどもってのほかです。生徒は訳読方式の授業を望んでいます」、「大学入試の問題が変わらなければ授業は変わりませんよね」などと言われていた。SELHiの様々な取り組みをする中で、多くの学校を見学し、熱意ある先生方に出会う前であったなら、「そうですね」と私も簡単に相槌を打っていたかもしれない。しかし例えば福岡県の香住丘高校や滋賀県の米原高校のような、県下でも有数の学校を始め多くのSELHi校が、4技能統合型の授業を行い非常に大きな成果をあげている事実を見ても、「進学校だから」などという免罪符はもう通用しない気がする。大学入試センター試験にも2年前から「リスニング試験」が導入されたように、大学入試問題も徐々にではあるが確実に変わりつつある。
 上に書いたような、教員自らの思いこみと決めつけが授業改善を阻み、生徒の英語に対する可能性を摘み取っているとしたら大きな問題ではないだろうか。英語に「受験英語」とそうでない英語との区別があるわけではない。外国語教育とは、その言語を使ってコミュニケーションが取れるようにすべきものであることは、誰もが認めるところであろう。決して簡単なことではないが、自らの「カベ」を打ち破る時が来ているのだと思う。ただ1人で悩む必要はない。私たちの回りには、SELHi5年間の成果がある、そしていつでも手を差し伸べてくれる、英語教育に対して熱き思いを持った多くの友人がいるのだから。


5. 最後に

 本校最終年度報告書の中に、お世話になった先生方のお言葉を掲載している。ぜひお読み頂ければと思う。その中から山岡先生のお言葉を少しお借りしたい。
 「長野高校のSELHiを一言で述べるなら、『誠意ある模索』ということに尽きよう。その取り組みには、生徒たちの実情を見据えたうえで、奇を衒わず基礎力を着実に伸ばしながら授業をこつこつと改善するという、どこの学校でもできる実践を根気強く続ける傍ら、地域の小学校・中学校との連携を築いて、小中の先生方との切磋琢磨のなかで、先生たちが意識を変え自信を深めていった着実な歩みが見られる。」

 SELHiにもし出会わなければ、私たちは英語を教える苦しさも、そして喜びも、また人と出会うことの大切さもここまで感じることもなかったかもしれない。私たちはただひたすらに模索し、議論し、悩みそして感動し、それぞれが変わっていった。決して楽な道ではなかったけれど。近年、SELHiを希望する学校が減っていると聞く。この素晴らしい成果が決して絶えることなく、皆が共有できるようになるように私も努力したいと思う。そして近い将来、このSELHiの成果を礎として、「英語が使える日本人」が当たり前の日が来ることを心から願っている。共に頑張りましょう。


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