TOEFL Mail Magazine Vol.55
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SELHi校の試行錯誤



それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「従来の英語教育の枠組みを超えた新しい英語教育に関する研究開発」に取り組まれた、高知西高等学校の山田憲昭先生から、ご寄稿を頂きました。



新しい英語教育へのチャレンジ
―高知西高校スーパー・イングリッシュ・ハイスクールの取り組み―
高知西高等学校 英語科教諭 山田憲昭
山田 憲昭先生 プロフィール
高知西高等学校 英語科教諭 山田憲昭氏山田 憲昭(やまだ のりあき)

高知県出身。教員歴21年。2001年全国英語教育研究大会高知大会の高等学校公開授業者。同大会で高知県授業研究プロジェクトチームのメンバーとして東京学芸大学金谷憲教授らと共同研究を行い、「和訳先渡し授業」を発表。以降、全国の英語教育セミナーや研究会においてその指導方法を紹介してきた。2003年から3年間、勤務校の高知西高校がSELHi校の指定を受け、研究主任を務めた。

◆参考文献◆
☆高知西高校SELHi研究開発に関して
・「SELHiはこんな授業をしている」『英語教育2006年8月別冊』2006、大修館書店
・「SELHiに見る英語教育の挑戦」『進研ニュースVIEW21特別号高校版』2006、Benesse
・高知県立高知西高等学校(2006)『平成15〜17 SELHi研究開発実施最終報告書』
・高知県立高知西高等学校(2006)『英語ディベート・ディスカッション指導マニュアル』

☆和訳先渡し授業に関して
・金谷 憲+高知県高校授業研究プロジェクト・チーム(2004)『和訳先渡し授業の試み』三省堂
・金谷 憲、全英連高知大会授業研究プロジェクト・チーム(2001、2002)「連載The Making of 全英連授業―高校英語授業を変える」(1)〜(6)、『STEP英語情報』日本英語検定協会
・山田 憲昭(2001)「公開授業:高校英語リーディング授業を変える」『第51回全国英語教育研究大会高知大会 大会要項』全英連

1. 授業第一主義の研究
 本校は平成15年度から3年間、文部科学省スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールの指定を受け、「従来の英語教育の枠組みを超えた新しい英語教育に関する研究開発」に取り組んだ。
振り返ってみると、とにかく「授業作り」「授業改善」に明け暮れた3年間だった。6つの学校設定科目を新設し、3つの従来型授業のシラバスを刷新し、本校が目指す授業を追求した。まさに「授業第一主義の研究」だったと言える。ここまで大規模な授業改革を行ったSELHi指定校は他にはないと思う。
「多忙な学校教育の現場で一体何ができるのか?」と教科指導の研究を疑問視する声、教科指導を二番目・三番目の仕事として位置付けるような発言も聞かれる。しかし、教科指導がすなわち生徒指導であり、進路指導であると思う。日々の授業を少しでも改善し、その授業を通じて生徒を導くことこそプロの教員として取り組まなければならない最大の仕事のはずである。

2. 研究の背景
 本校の研究開発の背景には2つの大きなきっかけがある。
一つは、2001年11月に開催された第51回全国英語教育研究団体連合会全国英語教育研究大会・高知大会での先行研究である。
同大会の公開授業において高知県高校授業研究プロジェクト・チームが東京学芸大学の金谷憲教授とともに研究した成果を「和訳先渡し授業」という形で提案した。この提案は
日本の高校の英語授業においては「生徒が英語に触れる絶対量が少なすぎる」という事実に着目し、和訳配布等の方法を通じて生徒が触れる英語量を従来よりも格段に増やし、生徒の英語運用能力の向上を目指す
(2004年『和訳先渡し授業の試み』より)


という試みであった。2004年には『和訳先渡し授業の試み』(三省堂)として出版され、さらに多くの全国の先生方に知られるようになった。本校のSELHiにはこの研究をもっと発展させたいという強い思いがあった。
もう一つの重要な背景は、本校へ入学する新入生の英語力の変化であった。年々変化(低下)する新入生の英語力にふさわしい新しいシラバスおよびカリキュラムの構築が急務だった。
本校ではすでにSELHi指定以前から新入生の英語力に顕著な変化が見られ、学校規模での語彙サイズテストや英語力の測定を開始していた。公立中学校では英語の授業時間数が少なくなり、学習する語数や表現がそれまで以上に少なくなっていた。新入生にとって従来型の高校英語授業はかなり高いハードルであり、どうすればそういう生徒たちがスムーズに高校英語に移行でき、モチベーションを維持しながらさらに英語力を向上させることができるのか、教員は不安であった。「ここまでジャンプして来い!これが高校英語だ!」と無責任には言えない状況だった。
こうして本校は、個々の授業改善に留まらず、高校3カ年の英語指導カリキュラムをもう一度見直し再構築する必要があるのではないかという「和訳先渡し授業」の本来の提案を本校独自のカリキュラムの中で具現化する、という大きなチャレンジをスタートさせた。

3. 私たちが取り組んだ研究開発課題

 本校の研究開発課題『多量のインプットを良質のアウトプットに高める体系的な指導システムの開発』には、以下の2つのねらいがあった。

T.
現在、日本の高等学校の英語授業において極めて少ないと報告されている「生徒が触れる英語量」を、和訳を先に渡すなどの工夫を用いて、具体的にどのくらいにまで増やすことが可能なのかを調べ、その増えた英語量によって生徒の英語力が向上することを検証する
U.
高等学校での英語授業を通じて、生徒の「多量の英語インプットを良質のアウトプットに高める」ことができる3年間の英語指導システムを体系化する

このねらいを達成するために私たちが描いた研究の大筋は、以下のようなものであった。

T.
これまでの英語科の英語指導方法、指導システムをもう一度見直す
U.
本校が目指す生徒の英語力の最終目標を明確にする
V.
設定した目標に照らし合わせてその達成に必要な授業を開発・実践する
W.
本校の3年間の新しい英語指導システムを構築する

開発課題中の用語の定義は、以下の通りである。

【多量のインプット】とは?

@同じ教材を繰り返すことによる量
意味の分かった英語を様々な方法で繰り返すこと (教材のリサイクル)
A異なる教材を使うことによる量
和訳配布などの工夫を通じて教科書を従来の倍の速さで終え、余剰時間でさらに多くの教材を採択すること

【良質のアウトプット】とは?

@スピーキングやライティングを通じて、事実や意見が正確に伝わるアウトプット
Aグローバル・エデュケーションが提唱している地球市民としての知識・感性を備えたアウトプット

【体系的な指導システム】とは?

「世界の様々な人々と対等に意見交換ができるコミュニケーションのベースとなる英語力」を育成することを目的とした「多量のインプットをインテイクとして取り込む授業」から「インテイクを効果的に良質のアウトプットにつなげる授業」に到るまでの効果的な配列


4. 研究の柱として大切にしたもの

 1年目の研究が終了した時点で思い切った研究計画のスリム化を行った。このスリム化により、見栄えのする行事・活動・取り組みに振り回されることなく、研究の核心にこだわることができた。また、余分な労力・負担が軽減されたのも言うまでもない。以下は、本校が研究の柱として大切にしたことである。

(1)「英語量」にこだわった授業

全英連高知大会で発表した「和訳先渡し授業」から始まった英語量を増やす工夫を3年間の英語授業全体に組み込んだ。その工夫は「同じ英文を何度も繰り返す」と「和訳配布で生まれた余剰時間でさらに多くの英語に触れる」という考え方であり、最終的には「個々の授業で繰り返す」と「カリキュラムを通じて繰り返す」の2つの方法をシラバスに組み込んだ。
たとえば、個々の授業における工夫として同じ英文を何度も繰り返し読まなければならない活動というのがある。具体的な活動は以下のような仕組みやルールに基づいて実践した。

@

生徒が英文を読む際、原則として全体(課全部)を読まなければならないように仕組む
A
同じ英文を知らず知らずのうちに繰り返し何度も読むような活動を仕組む
B
内容理解の済んだ英文を繰り返し読むような活動を仕組む
C
生徒のWPMから活動時間を設定し、1単位時間に読む英語量を最大限に増やす
 

(2)プロジェクト・チームと公開授業

 少数の教員でSELHiプロジェクト・チームを立ち上げた。常に計画・実践・検証等の先頭に立ち、全教職員の理解と協力を得ることができるようにチームで呼びかけることを心がけた。研究をスムーズに進めることができた要因の一つであると思う。 年間5〜10回、積極的に公開授業を実施し、授業者以外の視点から学ぶ仕組みを作った。公開授業は、事前に参観者に授業テーマを知らせておいて参観していただくテーマ設定方式へと発展。参観者の視点が絞られ、公開授業後の研究協議会はたとえ短時間であっても非常に有意義で充実したものになった。

 

(3)「個々の授業」から「3年間の指導システム」の構築

 以下のように当初の計画@ABは最終的にCDEという3つの指導プログラムにまとまり、年次進行でその学習内容を発展させながらゴールを目指すという3年間の指導システムが完成した。(資料@参照)
個々の授業を3年間の指導システムへと関連付ける、いわば「点」を「線」で結んでいく作業は大仕事だった。理論は言うまでもないが、教員自身が思い描いた生徒像を見失わないことが鍵であったと思う。生徒の英語力が思うように伸張しない、授業展開がうまくいかない、生徒のモティベーションが高まらない、等たくさんの困難な場面があった。しかし、どんな時も「皆さんには・・・・できる英語力を身につけてほしいのです!」と生徒たちに教員の熱い思いを繰り返し伝えた。

■当初の計画■

 

@
1年次のうちに高校英語のベーススキルを確立する
  A
2年次に英語使用場面・使用量を確保することでその定着を図る
  B
3年次には目的を持って英語を使える人材を育成する

■最終的な指導プログラム■

 

C
英語量を確保する増量コアプログラム
  D
英語を通じて技能のスキル向上を目指す英語スキル養成プログラム
  E
グローバル・エデュケーションの考え方に基づいて地球市民育成を目指す地球市民育成プログラム

5. 得られた成果と残った課題

(1) 英語運用能力の向上

 研究対象生徒の4技能を定期的に測定した結果、どの技能もほぼ目標とするところまで伸びた。特に、スピーキング力とライティング力の伸張が著しく、彼らの英語運用能力は従来のカリキュラムで過年度生が到達しなかったレベルにまで向上した。
たとえば、「ほぼ全員が30分程度で、ある1つのトピックに関して100〜200語の英文を書くことができる」ようになった。

 

(2) 英語活動への「慣れ」の向上

 ディベートやプレゼンテーション等の英語を使った活動においては、それらを繰り返し行うなかでこういった活動への「慣れ」の部分がかなり向上した。
当初は「できない」「無理だ」としり込みしていた生徒たちも計画的に活動を繰り返すうちに、人前で堂々と英語を使って自分の意見を述べたりすることができるまでになった。授業評価アンケートによると、技能が向上した理由として、数(量)をこなすことがその活動や技能の向上に強く結びつくと回答した生徒が多数だった。

 

(3) 新しい英語教育の系統的な指導カリキュラムの開発

 3年間の系統的な英語指導システムが完成した。従来の教科書を教えるというスタイルから脱却し、配置された全ての科目がそのゴールを目指して意味あるつながりを持ち、特に「英語で・・・ができるようになる」というゴールを最優先した系統的な指導システムが完成した。
システムの中には、従来よりも多くの英語量を確保する増量コアプログラム、学んだ英語を実際に使えるスキルとしての定着を目指すスキル養成プログラム、グローバル・エデュケーションの考えに則り英語教育と国際理解教育を融合した使命感を持った人材を育成する地球市民育成プログラム、という3つの指導プログラムを効果的に配置することができた。

 
(4) 学校の教育力の向上

 課題設定⇒仮説・計画⇒実践⇒省察・検証というプロセスは授業改善の最も有効な手法であり、生徒と教員の信頼関係を高める最も効果的な手段であると認識することができた。
個々の教員あるいは教員グループがこの手法を用いて日々の授業実践を繰り返しながら授業改善を図るという方法は教員の共有財産となった。まさに学校全体の教育力の向上と言える大きな変化であった。
追記するが、SELHi研究指定が終了した今年度(2006年度)、SELHiを牽引したプロジェクトチームを中心とし、ポスト・セルハイという取り組みを開始した。これはSELHiの成果の継承と残る課題の解決に向けた取り組みで、主にSELHi授業の継承と発展、全英語科教員の公開授業、多読プログラムの継続に取り組んだ。

 
(5) 新しい英語教育の可能性への示唆

 新しい英語指導システム作りに必要な多くの示唆を得ることができた。
例えば、生徒が好感を抱く授業とは「ゴールや評価基準がわかりやすく、英語力の伸張が実感できる」授業であるとわかった。生徒は「新しい学び」がある授業を「やる気が出る」「面白い」「英語力がつく」と考え、好感度も非常に高かった。これらの示唆をどのように今後授業に取り込んでいけばいいのかが今後の課題と言える。


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