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TOEFL Mail Magazine Vol.43
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特別寄稿:SELHi校の試行錯誤
 

滋賀県立米原高等学校今回は、2002年4月から2005年3月にSELHi第1期指定校である滋賀県立米原高等学校にて研究主任を務められた山岡 憲史(やまおか・けんじ)先生にご寄稿いただきました。

*1963年に創立された同校では、国際社会で幅広く活躍出来る人を米原の地から育てたいという願いのもと、2001年に普通科英語コースが創設されています。

 
滋賀県立米原高等学校におけるSELHiによる「意識改革」

滋賀県立草津東高等学校 教頭 山岡憲史

山岡 憲史先生 プロフィール----------
山岡 憲史先生1978年3月神戸市外国語大学外国語学部英米学科卒業。滋賀県内の複数の高等学校にて英語教諭として勤務する傍ら、文部科学省教科書検定調査委員、京都外国語大学短期大学部Basic Grammar講師、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会外国語部会委員などを歴任。2002年4月〜2005年3月文部科学省スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)第一期指定校・滋賀県立米原高等学校における研究主任。2005年3月「『英語が使える日本人』の育成のためのフォーラム2005」における模擬授業で高い評価を得る。2005年4月から現職。2005年7月「第54回読売教育賞」外国語教育部門最優秀賞を受賞。

大修館書店『基本単語徹底活用 英語のクロスワード101』、大修館書店『ジーニアス英和辞典 第2版』(分担編集)、三省堂『ニューセンチュリー和英辞典 初版・第2版』(分担編集)、大修館書店 文部省検定教科書 Departure Oral Communication I(分担編集)、大修館書店『オーラル・コミュニケーション ハンドブック』(分担編集)など著書多数

SELHiはプレッシャーとの闘い
SELHi授業の様子 SELHiに指定されると激務が待っている。文部科学省への計画書や報告書の作成をはじめ、運営指導委員会の開催、公開授業の準備等々、次から次へと大きな仕事が襲ってくる。だが、仕事量の多さよりも肩にずしりと重いのは、文部科学省、県教委、そして周囲からの大きなプレッシャーである。SELHiという名前がすなわち「高度な英語のコミュニケーション能力を育成している学校」と考えられ、常に指導や評価を受けるため、教育活動を日々充実させ、生徒を伸ばし、実績を上げ、成果を積み上げなければならない責務にSELHiの英語科教員たちは懊悩する。成果の報告が、「こんなことをやりました」という活動や行事の記録だけで済まず、「データに基づき実証的に検証」しなければならないところが、苦しみの根源となる。
 しかし、よくよく考えてみると、そのようなプレッシャーがあるからこそ、人は模索を続け進歩する。たとえ十分な成果を残せなくとも、試行錯誤を繰り返しながら求めようとしたものが、必ずや生徒にも教師にも大きな財産をもたらす。滋賀県立米原高等学校のSELHiは、このプレッシャーを力にしたことに、その充実の鍵があると考える。
 施設や環境に恵まれない普通の学校で何ができるか。それは、英語教員の意識改革を図って、そこから生まれ出るものを紡ぎあわせるしかない。SELHiという権威とその経費を使ってどんどんと外部の力を利用し、その大波の中で教員自身が刺激と重圧とを糧にして、自らの殻をうち破ることこそが、英語教員の意識を確実に変えていく。それこそがSELHiの偽らざる本質であり、成果であると思う。米原高校でも、押しつぶされそうなプレッシャーの中でひたすら走り続けた3年間が、私自身を含めた英語科教員の意識改革をもたらしてくれたのである。
 
授業を変える
SELHi授業の様子 「授業を変える」とひとことで言っても、その目指すところが曖昧では真の変革にはならない。教える際の説明の仕方を変えるのか。生徒の活動や課題を刷新するのか。もっと末梢的な指導技術に焦点を当てるのか。それらも授業を変える要素である。しかし、技術や方法論に終始していると、本質を見失う危険がある。私たちの考えた「授業改革」では、「教える」技術より一歩進んだ「生徒に力をつける」ことを最大の目標とした。教室には教師がいて生徒がいる。教師と生徒の間のメカニズムをどのように変化させ、生徒同士の間に有意義な学びの機会をいかに作るか。どのような教材を作って何を教え、学ばせる手順はどのようにするか。教師は生徒の学びにどう関わり、それを支援・強化するか。知識の吸収・定着とその活用(input→intake→output)を授業の中に意図的に位置づけ、スキルを限定せず、複合的、多元的に伸ばすことこそが「授業改革」の中核であるとして、4技能の総合的な伸長を目指した。
 授業には大きく分けて、4つの要素がある。


1.

知識の注入・伝達

2.
知識の消化
3.
知識の活用
4.
知識の定着

 これらすべてを1時間の授業で網羅することはかなり難しい。しかし家庭学習を含めて、数時間にわたる単元のプロセスを慎重に作るならば、このことは可能になる。また、課外の活動もその中に位置づける。
 リーディングの授業で、実例を示してみよう。解釈(解説と和訳)だけで終わってしまいがちな読解の授業で、他の技能を伸ばすためには、書かれている内容を理解するだけでは不十分であり、受動的な能力しか伸びない。しかも、それが日本語を媒体としての理解であれば、英語のinputは極めて希薄になる。
 そこで、内容を理解させるためにすべて英語で解釈を行う。英問英答で解釈を助け、生徒の理解が及びにくいところは原文をパラフレーズして説明する。解説は最小限度にとどめ、音読を重視する。その過程で詳細な構造理解が可能になるように仕組む。解釈が終わった後は、テキストの英語を活用した表現練習、語彙や表現の強化につながるコミュニケーション練習を行い、さらに、テキストの要約や題材に沿ったディスカッションやディベートを導入し、読み知った英語を使う訓練をする。最後に、口頭で行った発表を書いてまとめる練習もさせる。
 この「授業改革」に伴う産物は、

1.

生徒が「使う」観点で英語を読むようになる。

2.
音読を繰り返す中で、生徒が自らの力で理解するようになる。
3.
題材についてテキストの英語を使って話せるようになり、読み知った英語が定着する。

さらに、教師の側にも次のような変化をもたらす。

1.

テキストを理解させるための質問を工夫するようになる。

2.
テキストの文構造を使わずに同じ内容を理解させるために、言い換えの力が伸びる。
3.
テキストと関連を持たせてディスカッションやディベートをリードし、生徒の発言を促すテクニックが身に付く。
4.
生徒が書いた英語を、いかに伸ばすかという観点で評価する力がつく。

 このような多技能を1単元に盛り込もうとすると大変時間がかかる。そのため、読解は手早く済ませる必要があり、速読力を養うための指導技術も要求される。
 「授業改革」には、形態や小手先の技術が主となるのではなく、生徒のどのような力をいかに伸ばすかを念頭に置いて、生徒の意識改革を促し、さまざまな課題やタスクを導入しながら教師自身も伸びていくことが大切であると思う。生徒の総合的なコミュニケーション能力を伸ばそうとすれば、教師もまた力量を上げなければならない。
授業改革を促す授業公開
 米原高校では、「授業改革」を促進するプレッシャーを次の2つに求めた。

1.

授業の公開、研究授業

2.
外部の専門家による授業指導

 授業を進んで公開し、研究授業を多く持つことで、学校内の閉塞的な状況を打破できる。外部の参観者の目は、私たちが全く意識していなかったことにも向けられ、見られることで新たな発見がある。高い評価は自信につながる。米原高校には、高等学校の関係者だけでなく、関西大学、立命館大学などの学生や教授も多く参観に来られ、授業後有意義な意見交換をもつことができた。
SELHi授業の様子 英語教育を専門とする外部の専門家に授業を直接見てもらい、指導を受けることは、授業者のコンセプトや指導技術に大きな影響を与える。併せて、授業者自身が気づかない生徒の学習過程を分析してもらうこともできる。米原高校の高大連携は、大学へ生徒が赴いて授業を受けたり、大学から講師を派遣してもらったりの講義スタイルとともに、個人レベルのつながりを重視した。このことが新たなネットワークにつながり、思いもしない多くの要素を取り入れることができる要因となった。
 3年間にわたって授業の指導をしていただいた関西大学教授の斉藤栄二先生は、米原高校のコンセプトに次のようなメッセージを寄せてくださった。
 「本音でいえば、教師は自分の授業を見られるのを嫌がる。しかし米原では、当初からそういうことはなかった。Everybody is welcome.というのが基本姿勢であった。外部の方々、特に教える専門家である他校からの教師に授業を見られることは、ある意味ではつらいことである。普通はどうしても授業を見られることを避ける方向に行く。米原高校ではそういう方向をとらなかった。これは米原高校英語科教師集団を率いた英語科主任山岡教諭の当初からの方針であった。そしてそれに協力した米原高校英語科の先生方のチームワークのおかげであった。見られるためには、それぞれの教師が、やはり自尊心をかけて、良い授業をお見せしようと心がけるのは当然のことである。この辺は、やや舞台俳優に似たところがある。観客の目にさらされることによって、演技は進化する。それと同じような現象が米原高校に起こった。米原高校では、'自由に授業をみてください'、というスタンスである、ということが自然に伝わり、それによってかなり多くの訪問者が同校を訪問することになった。筆者自身もその一翼を担わせていただいた。筆者が大学院で担当している博士課程後期の院生も筆者と何度か米原を訪れた。彼らいずれも高校の英語教師を経験したベテランである。その結果、英語科の先生方は、絶えざる緊張感の中におかれることになった。この緊張感から逃れようとしなかったことが、英語の授業のレベルアップに繋がったことは間違いない。米原高校英語科の先生方に拍手を送りたい。」
 
英語教育を変えるもの

 SELHiは「効果的な指導法」を実証するための事業である。しかし、どのような効果的な指導法も、教師と生徒が作り上げる文脈の中にしっくり嵌らなければ、単なるテクニックで終わってしまうだろう。テーマに設定した課題を追い求めながら、生徒をいかに変えていくか、教師がいかに変化していくかを見守ることも事業の大きなねらいである。何かを求め続ける間に、別の興味深い事実や現象や可能性が露呈されるかもしれない。教師の試行錯誤の中で、次第に良い授業に対する共通理解が生まれる。それもまた、SELHiでこそ味わえる醍醐味である。「普通の学校」での普通の取り組みが、決して積極的であったとは言えない生徒たちの意欲を大きく変えることができた実績は、SELHi校でなくとも、希求するものを内側で昇華していけば、必ず道筋が見えてくることを示したと言えるだろう。教師が生徒とともにその道を歩きながら、どんどん視界が広がるという経験をするなら、「意識改革」は確実に達成される。英語教育は、そのような内在的な意志から変わっていくものだと確信できたSELHiの3年間であった。

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米原高等学校のSELHiとしての取り組みの詳細は以下でご覧いただけます:

米原高等学校SELHi報告書(PDF)

読売教育賞受賞論文(外国語教育部門)
【参考資料ダウンロード】
英語教材の作り方(PDF:39KB)

ディベート授業用マテリアル(PDF:50KB)

生徒アンケートの結果(PDF:100KB)
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