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TOEFL Mail Magazine Vol.41

大学トップに聞く
東京大学 総長 小宮山 宏 氏】

 本シリーズでは、特色ある大学のトップの方々に大局的な視点から大学の運営・指導方針、授業の改善などについてインタビューさせていただいた内容をご紹介しています。
  今回は、日本で最も長い伝統を礎に、常に新たな挑戦を行っており、世界水準においてもトップレベルである東京大学小宮山総長にお話を伺いました。頂点を見据えた総長の「世界一」という言葉には迫力があり、強く印象に残りました。これからも「世界の東京大学」はさらなる飛躍を遂げることでしょう。

 
 プロフィール:小宮山 宏(こみやま・ひろし)氏
東京大学 総長 小宮山宏 氏
昭和19年12月15日生
昭和42年3月 東京大学工学部卒業
 〃 44年3月 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
 〃 47年3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
 〃 52年5月 東京大学工学部講師
 〃 56年1月 東京大学工学部助教授
 〃 63年7月 東京大学工学部教授
平成6年4月 東京大学総長補佐(〜平成7年3月)
 〃 7年4月 東京大学大学院工学系研究科教授
 〃 11年4月 東京大学評議員(〜平成12年3月)
 〃 12年4月 東京大学大学院工学系研究科長、工学部長
(〜平成14年3月)
 〃 15年4月 東京大学副学長、附属図書館長
 〃 16年4月 国立大学法人東京大学理事(副学長)、附属図書館長
 〃 17年4月 東京大学総長
現在に至る
 
東京大学は長い歴史の中で常に日本の大学をリードされてきましたが、現在の目標を教えて下さい。
 本学の目標は、時代の新しいコンセプトを作り、世の中に発信していく大学になることです。それを「世界一の総合大学を目指す」と表現しています。「世界一」という言葉をあえて使うのは、日本人が日本を過小評価しているのではないかと強く思うからです。日本人は自国の悪いことばかりを言いがちです。10年程前にスイスの国際機関が世界の大学のランキングを示したときに、ほとんどのメディアが日本は先進48ヶ国中最下位だと取り上げました。その後我々があのデータの根拠を調べたところ、それぞれの国のビジネスマンを対象とした「自分の国の大学をどう思うか」というアンケートの結果だとわかりました。つまり、あれは日本のビジネスマンが自国の大学を悪く言っただけのことなのです。日本の大学はどう見てもそんなに悪いことはないはずです。
 
確かに日本人は自国を控えめに評価しがちですね。戦後の高度経済成長などで世界を圧倒してきた割には、先進国という意識が低いのかもしれません。
 日本は今や世界の大国ですよ。経済の面ではGDPの観点から見ても堂々の2位であり、人口の観点でも9位です。人口が多いことは国力の一つですからね。また、環境問題に関しても、例えば世界で一番きれいな火力発電を行っている国は日本です。これは世界が認めるデータが示しています。日本の火力発電所の、酸性雨の原因になる硫黄酸化物や窒素酸化物の排出量は、他の先進国と比べて10分の1ほどです。ですから日本の排気ガスが原因で酸性雨が降って森が枯れることは実はほとんどないのです。しかしそういうことはほとんど報道しない。もちろん日本にも悪いところはたくさんありますが、いい面ももっと表に出していいのではないでしょうか。
東京大学 総長 小宮山宏 氏 教育の評価でも、最近ロンドンのタイムズ紙が、THES(Times Higher Education Supplement)という、比較的客観性・信頼性を得ている教育の評価機関が実施した大学のランキングを掲載しています。一番最近のものでは、本学がトータルで12位でした。そして世界のトップ100大学の中に日本の大学は4校入っていました。分野別には、ScienceとEngineering & ITの分野で本学は7位でした。このように、日本の大学はかなり世界的に評価されているのです。
もちろん、我々はこの程度では満足していません。もっと上を目指すべきであると思っています。世界の大国の中で、本学は非常に優秀な人たちが集まってくる比較的恵まれた状況にあります。そう考えたら世界のトップを目指すのは当たり前なのです。明治維新以来、日本は科学技術で一生懸命世界を追いかけて、30年以上前に世界第2位の経済力を持ちました。あの時に日本はだいたい世界に追いつき、世界のフロントランナーに出たと思うのですが、まだ意識が途上国なのです。ここがポイントですね。
国として、自分達のコンセプトをきちんと発信していけるかどうかが問題ですね。それは外交の点でも大きく表れます。
 そうですね。例えばイギリスは大国だと思われていますが、本当は小さな国です。しかし英国首相は米国大統領にはっきりと「京都議定書に復帰せよ」と言うではありませんか。それは温暖化が21世紀の本質的な問題だからです。これが自分たちのメッセージを発信するということです。それができていないのは、日本の意識が途上国だからです。今の日本の政治はアメリカが何をするかしか見ていない。もっと大きな声で、自分たちがやりたいことを主張していくのがフロントランナーの証でしょう。私は大学で、我々自身が今後の教育や学術のありかたを大きく発信していくことを目指しています。
日本での大学間の競争は熾烈を極めていますが、世界相手の競争に勝ち残るためにはある程度日本全体が大学としてレベルが上がらないといけないと思います。日本の大学が国際競争力を高めるために何をすべきだとお考えですか?

 各大学が教育の方法・方向、あるいは研究などによって徹底的に個性化することです。昔から、国立大学はどこも同じで個性がない金太郎飴と言われてきました。今はその逆のコンセプトが必要なのです。20年ほど前に、化学工学という学科で当時目指すべき方向性を10人ほどの教授で話し合ったときに、我々は化学工学の中の、重要な4つの柱の一つであったパウダーテクノロジーの分野の研究をやめる決断をしました。そして代わりに反応工学という分野の先生を増やし、資源を集中していったのです。一方違う方向を採ったのは京都大学です。京都大学は反対にパウダーテクノロジーの教授を増やしました。このように、化学工学の例一つを取っても、東京大学と京都大学は個性化しているのです。極論ですが、研究は世界でトップでないと意味がありません。ですから世界でトップに立てるまでそれぞれの大学が個性化することが必要なのです。教育も同様です。例えばライフサイエンスの中でも最新分野の教育に特化したり、赤ひげのようないい医者を育てる教育に特化したりと、個性化すべきです。そういう環境で育ち、それぞれ個性を持った学生が今後社会に必要とされるのでしょう。
 化学工学でいえば、化学工業のシステムを作るのがレゾンデートルです。しかし化学工業を新しく作っていくニーズは当時より減っています。そこで現在、企業から2つの両極端な要求があります。化学工業を作っていくエンジニアを育てるために、昔通りの教育を行って欲しいというものと、もっと先端的な、ナノテクノロジーやライフサイエンスのわかる化学工学の学生を育てて欲しいというものです。昔と同じ化学工学の教育を受けたエンジニアも確かに必要ですが、一番必要としていたときの4分の1くらいのサイズでしょう。また、逆に新しい分野に行く人たちも育てるべきです。それが個性化ですよね。金太郎飴を徹底的にやめて個性化すれば、日本の大学は生きられるのです。

世界の中で活躍していく人材を育てるために、東京大学の中での国際理解教育はどのように進めていらっしゃるのでしょうか。
東京大学 総長 小宮山宏 氏 駒場キャンパスでの英語教育は随分進んでいます。TOEFLテストなどもうまく利用しながら、ラボでの英語の教材作りなども行っており、東大だけでなく全国に使っていただけるものを作ろうとしています。また、電気やマテリアル、社会基盤といったいくつかの学科は国際コースを作っていますし、ほとんど全部英語というところもあるのではないでしょうか。
 授業は大きく分けて講義と研究室があります。研究室の中はperson to personなので臨機応変に英語と日本語を使います。英語による講義は相対的には10%ほどです。学部で外国人が来たときに、カリキュラムを組むのに困らないだけの英語の授業は用意できている程度ですので、まだまだですね。もう少し、20%くらいに増やすべきだと思っています。しかし私は全てを英語で行うのには賛成しかねます。全部英語にするということは、我々の文化を英語圏の文化にすることです。ですからそこは非常に注意しなくてはならない。自然と文化の多様性は世界の人類の財産であり、人類が何を捨てても守るべきものです。
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確かにその通りですが、しかし同時に英語は自分たちのメッセージを世界の人たちに発信する道具でもあるのではないでしょうか。
 その通りです。英語が使えないと、その前の段階のコミュニケーションすらできないですから。しかし私は、一番深い理解になると英語では通じないのではないかと思っています。やはり英訳・和訳といっても結局は言語の置き換えで、コンセプトとしてその文化にないものは言葉もないため、重要なニュアンスが伝わらないのではないでしょうか。私は10年ほど前にoutreachという言葉に遭遇しました。米国人は皆outreach, outreachと言うのですが、英和辞書を引いても全くわかりませんでした。そのうち実際に行動しているうちに、Outにreachすることだとわかりましたが、私は今でもOutreachにぴったり当てはまる日本語はないと思っています。このように、うまく置き換えができない言葉がたくさんあります。それは文化も生き方も違う人たちが使っている言葉ですから、当たり前のことです。
 よく英語を話せない社長が外国に英語の達者な部下を連れて行って、「なんか俺より部下のほうが偉く見えちゃって・・・」などと言っているのを聞きますが、かなり本質をついていませんか? ただ英語を話せるというだけで、偉く見えてしまう。私は、家の近くで3歳くらいのアメリカ人の女の子が不安そうに立っていて、遅れてきた母親に向かって、"Mommy, I have been waiting for you."と言ったのを今でも覚えています。現在完了進行形ですよ(笑)。冷静に考えたら3歳の子でも現在完了進行形くらい使うのは当たり前です。生まれたときからそれしか知らないのですから。それでも英語が話せると偉いように見える。この感覚を取っ払わないといけませんね。
それでも、私たちの頃と比べると英語教育は随分と変わりました。私はDoctorの3年生の時に、初めて第1回PACHEC(Pacific Asian Chemical Engineering Conference)という国際会議に出席しましたが、そのときに英語で発表しなければならなかったので、あわてて仲間数人で英会話の先生を雇いました。1回につき2万円、一人5千円を出したのを覚えています。とにかく発表のときに話せるようにはしましたが、質問されたらどうしようと内心どきどきしていましたよ(笑)。それと比べると今の学生は随分ハンディキャップも少なく、上達していますよね。
 
学生に対して海外に行くことは勧めていらっしゃいますか?
東京大学 総長 小宮山宏 氏 はい、積極的に勧めています。例えば組織的にはUT-Forum(UT=University of Tokyo)という、本学の研究活動や成果を海外でoutreachしてくるフォーラムを外国で開いていますが、その3回目からは学生を連れていくことにしました。数十人の学生のグループを連れて、向こうの学生と懇親させます。また、マサチューセッツ工科大学(米国)・スイス連邦工科大学(スイス)・チャルマース大学(スウェーデン)・東京大学の4大学のAlliance for Global Sustainability(AGS)というAllianceも、始めは教員でスタートしたのですが、数年前から学生を連れていくようになりました。そこはまさにInter-facultyの組織で、経済・医学・法律など分野は様々です。それから3,4年目に、本学の学生が中心になってStudent Forum for Sustainability(SFS)を立ち上げました。リーダーは大学院生ですが、学部生も多くいます。名簿上は100人くらいになるかもしれません。今年は北京で開催されたのですが、反日運動の最中でしたので、組織として連れて行くことはやめました。その前のスウェーデンの時は十数名のグループが3つ、40人くらいの学生が行き、1週間ほどスウェーデンの学生と交流しました。このAllianceは継続的なもので、Annual meetingをまわり持ちでやりますが、これには今まで約10年間必ずその4大学の学長自身が参加するという珍しい会です。
以上が私が把握している例の一部ですが、その他にも学生の国際化には、各教員が皆非常に努力しています。
 

東京大学の卒業生は多岐の分野で活躍されていますが、在校生や卒業生へのメッセージをお願いします。
 「国際人になって欲しい」と言うと喜ばれるのでしょうが(笑)、今あえて言いたいのは国際や産業などという当たり前のことではありません。重要なことは、「本質を捉える知」・「他者を感じる力」・「先頭に立つ勇気」を持つことです。現在、知識は爆発的に増えています。光合成一つを例にとってもおそらく20世紀の間に知識が1000倍くらいに増えています。どの分野でもそうです。そういう知識の洪水に溺れない「本質を捉える知」が今は必要なのです。
東京大学 総長 小宮山宏 氏 しかし「知」だけで社会は動かない。大切なのは他者です。人間は一人で生きているわけではありませんので、「他者を感じる力」も必要です。ここが現代の本質的な問題です。例えばヘッドフォンで音楽を聴きながら通学して大学で講義を聞いて家に帰ってゲームをするという生活を考えると、常に一人の世界です。つまり、現代は一人の世界に閉じこもる手段が安易に手に入ってしまうのです。耳をふさいで一人で音楽を聴いて、一人でゲームをして時間をつぶすのも面白いのですが、それでは育つものなどありません。私は昔、マージャンはあまり人間を育てるのに役立たないと思ったことがあります。なぜなら、4人でいても一生懸命パイを見ているだけで、会話がほぼないからです。それならお酒を飲みながら話しているほうがはるかに密なコミュニケーションができるでしょう。やはり直接的なコミュニケーションをして、例えば喧嘩をすることも必要だと思います。ですから今、ことさらながら「他者を感じる力」は必要ではないでしょうか。
 あとは「先頭に立つ勇気」です。世界でも日本でも会社でも、どんな小さな組織でもやはりリーダーは必要です。リーダーとは、特殊な人ではないと思います。必要なのは勇気でしょう。先ほどの例で言えば、英国の首相が米国の大統領に「京都議定書に復帰せよ」と言う勇気です。勇気を出して、自分から始められることは山ほどあるのです。「人間到る処に青山有り」といいますが、人間どこにでも骨を埋める覚悟でやる仕事はあるのです。あとは体力が持つかだけが心配です(笑)。体力がないと気力が出てきませんからね。
 
ありがとうございました。

(インタビュー:2005年6月15日 TOEFL事業部 部長 高田幸詩朗)
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