TOEFL Mail Magazine Vol.40

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立命館アジア太平洋大学 学長 モンテ カセム 氏
 

 本シリーズでは、特色ある大学のトップの方々に大局的な視点から大学の運営・指導方針、授業の改善などについてインタビューさせていただいた内容をご紹介しています。
  今回は、開学当初から注目を集めている立命館アジア太平洋大学(APU)モンテ カセム学長にお話を伺いました。国際社会の中で確かなミッションを念頭に置き、地域・日本・世界を見据えてAPUの改革を進めておられるカセム学長のお言葉は力強く、固い信念を感じました。

 
 プロフィール:Monte CASSIM(モンテ カセム)氏

立命館アジア太平洋大学 学長 モンテ カセム 氏

現職:
立命館アジア太平洋大学長、学校法人立命館副総長
生年月日:
1947年(昭和22年) 7月29日
本籍地:
スリランカ
現住所:
大分県別府市在住
専門分野:
産業政策、環境科学、国土計画、都市工学、建築学

【学歴】
1970年8月
スリランカ大学建築学科卒業
1972年9月
大阪外国語大学日本語プログラム修了
1973年3月
横浜国立大学大学院工学系研究科研究生修了
1974年3月
東京大学大学院工学系研究科研究生修了
1976年3月
東京大学大学院工学系研究科修士課程都市工学専攻修了
1982年3月
東京大学大学院工学系研究科博士課程都市工学専攻単位取得満期退学
【職歴】
1972年1月
スリランカ工学技術公団デザインコンサルタント部(建築士)
1976年4月
マレーシア工科大学居住・建築・計画学部常勤講師
1980年4月
三井建設設計部(建築士)
1981年1月
AUR都市建築コンサルタント(地域開発計画)
1985年2月
国際連合地域開発センター(UNCRD)主任研究員
1994年4月
立命館大学国際関係学部教授
1996年4月
立命館大学政策科学部教授(〜2004年3月)
2000年4月
立命館大学国際教育・研究推進機構長(〜2004年3月)
2004年4月
立命館アジア太平洋大学長・立命館アジア太平洋大学教授・
学校法人立命館副総長
現在に至る
 

近年、少子化の流れを受けて、2007年には大学全入時代がやってくると言われています。特に私立大学では生き残りをかけ、さまざまな工夫がされる時代になりました。APUはもとよりかなり特徴をお持ちですが、とりわけどのような改革を進めていらっしゃいますか?
 現在日本では、国公立大学の独立法人化などもあり、大学間の競争力があらためて問われています。しかしAPUの開学は10年以上も前から構想され、その当初から生き残り作戦の意味で作られた大学ではありません。そこが大事なポイントです。本学はちょうど2000年に、立命館自体が創始130年、創立100年を迎え、また新世紀を迎えるということで立命館の建学理念に見合ったミレニアムプロジェクトの一環で作られた大学です。ですから黒字経営も確かに重要ですが、APUのミッションが主になるのです。諺にもあるように、「不言実行」です。安っぽい宣伝をすべきではなく、やらなければならないことを丁寧にやり続ければ、道は自ずとできるのです。たとえば、本学にはジンバブエからの学生が83人来ています。もし、APUが生き残り作戦を考えているのなら、「アジア太平洋大学」なのですから「アジア太平洋」地域にフォーカスをあてればよいのです。そうすれば中国や韓国をターゲットとすれば9割くらいの留学生を獲得することができます。しかし私たちは、より多様な社会を作るべく、その地域からの学生もできるだけ5割程度に留め、他地域からの学生も積極的に受け入れています。
 

APUのミッションについて、現代社会との関係性と影響を中心に教えてください。
 この国際社会で、人々の持っている潜在能力を相互に高めていくことのできる平和な環境作りのために、どのような人間同士の交流があるべきか、どのような学術的課題に取り組んでいくべきか、どのような国・地域や産業の発展に結びつくべきか、という非常に大きな課題に取り組むことが我々のミッションであり、常にこれを念頭において行動することが、本学の大きな社会的責任だと考えます。
 私はこの本学のミッションを国際的に展開したい。日本では、若い世代を国際社会の中で養成するための基盤づくりが少し遅れていました。そのため、今は日本全体が総力をあげて頑張らなければならないのです。単なる「日本人」の枠を超えて、世界の人々と一緒に生活し、学び、社会貢献できる場で協働することから相互理解が生まれるのです。これらがすべて本学のカリキュラム作りに影響しています。

このような多国籍の大学を創設するにあたり、地域住民の反応はどうでしたか?
 創設前は、地域住民たちの間で多くの心配がありました。エイズや犯罪が増えるかもしれない、交番を増やしてくれ、保健所を充実しろ、などの要請もたくさんありました。しかし次第に相互理解が生まれ、今では市民も本学のイベントに参加し、食堂に来て食事を楽しんだりしています。また悲しい話ですが、カメルーンから来ていた学生が去年の今頃、卒業間際に交通事故で亡くなりました。彼が病院に入った瞬間から空港を飛び立つまで、学生や周りの住人たちがずっと付き添っていたといいます。数多くの若者も悲しみで泣きました。そのときに、もちろん学生の偉大な努力もありますが、当初さまざまな心配をしていた地域の人々が、このように黒人の文化を理解していた点、人々の価値観が国際化したことはとても嬉しかったです。

ミッションの重要性についてはよく理解できます。しかしこのミッションを果たしているかどうかは、決まった期間ごとに評価していかなくてはなりませんよね。では、APUではどのような自己評価規準を設けておられるのですか?

 本学を後々に振り返って自己評価するときには、4つのキーワードで評価しようと考えています。

● EXCELLENCE
  一つ目はExcellenceです。優れた大学になって欲しい。学術的な側面、知識創造の面、また運営面でもAccountabilityの高い、そして利益の高い優れた大学でありたい。社会貢献でも優れたものを目指します。広い意味では教職員や学生にも大いなる向上心を期待しています。
● SUSTAINABILITY
  立命館アジア太平洋大学 学長 モンテカセム 氏二つ目の柱はSustainabilityです。大学は社会資本でもありますから、功利主義だけで続けて「10年やってお手上げなので辞めます」というわけにはいきません。100年後や200年後にも存続させるためには、経営上のSustainabilityは重要です。財政が逼迫していたらミッションを果たすこともできません。財政的にも安定していて、教職員が喜んで働いてくれる大学であるべきでしょう。
また継続的に良い人材を採用して経営に反映させることや、良い学生を獲得し、よりよい人材を社会に送り出すという社会貢献もしながら大学を存続させなければなりません。知識創造面でも、創造した知識を集積したり、ケーススタディとして社会に返すことを継続的に行う必要があります。このように、経営面でも人的資源の開発でも、知識創造を通した社会貢献でもsustainabilityは必要なのです。
● CONVIVIALITY
  三つ目はConvivialityという柱です。生きていてよかったという喜びを感じられる共生を目指します。本学の構想時には、学生の国籍は少し野心を持って50カ国を対象にしますと言っていましたが、現在は75カ国・地域に増えたため、今度は100カ国を目指そうと方向を変えました。アジア太平洋地域の他、旧ソ連・東欧諸国・南米諸国やアフリカからも学生が来ていることは、アジア太平洋地域の今後について、世界中の注目が寄せられている証でしょう。域内の我々も地域を良く知ること、そして域外の人にも理解してもらい、将来に向けて彼らと共に何かを始める場所を提供することが、本学の存在意義のひとつです。多様な文化・社会・言語の背景を持つ人々が共に勉強し、遊び、共に社会貢献をすることによって生きる喜びを感じるキャンパスにしたい。それは教職員間でも学生間でも、教職員と学生の間でも、また本学を構成している人たちと周辺の地域社会も同じです。共生の裏にあるのは相互理解なのです。
● SERVICE
  四つ目の柱はServiceです。APUは、大分県や別府市など数多くの県民・市民の財政的な支援があって設立されました。地域への貢献と国際社会への貢献は我々の義務です。一例として、別府の宝物発掘調査を100人の留学生と一緒に行いました。彼らの目から見た別府を再発見することもまた、一つの地域貢献になります。
国際社会では、たとえばアジアとアフリカがもっと親近感を持って開発関連の交流など様々な面で刺激し合えるような関係を創造していきたいと考えています。国際社会への貢献を考えたとき、アフリカから学生が自発的にAPUに来ているのは我々にとって大きな励みです。彼らの中では、国費留学生は少なく、学費の面でも楽ではないはずですが、何十人ものアフリカ出身の学生が学内の奨学金を受けながら学んでいます。発展途上国の優秀な生徒を受け入れるために奨学金制度はやはり不可欠です。

もうひとつのserviceは、その国や地域の人々と一緒にニーズを考えていくことです。最近は企業からも様々な要請がきています。例えばインドの企業から「インドの技術者に日本語を教えて、日本でインドの技術を利用できないか」とか、また日本の企業からはインドのビジネスにおける本学の学生のインターンシップの要請もあります。後者の場合、企業側は労働力が確保でき、また派遣された学生達も実地に有意義な学習をすることができます。その他、本学の卒業生が企業でも評判が良いため、一緒に人材の共同研究開発をしようという要請もありました。
このように、その国や企業の発展にむけてAPUがどう貢献できるかを考え、国、企業、留学生、日本人学生ともにニーズのあるserviceをもっと徹底的に行っていきます。国際社会に貢献するという達成感がまた交流を深め、友情をより強化するのです。

出身国や地域の異なる人々と共にニーズを考え、サービスを提供していくのは、国際的な大学の新しい役割ですね。学生の高い意識はどのように育てられるのでしょうか。
 学生に「この国際社会を努力次第で変えることができる」という自信を与えるために、APUは国連などの国際機関の重鎮が世界を変える場を提供しています。具体的には、外交や国連交流基金作りにむけた専門家会議を本学で開催しており、去年も大量破壊兵器の製造や売買を阻止するための国際的な行動指針についての会議を開きました。イスラエルやエジプト、インド、パキスタン、米国、中国など、時には敵対関係にある国々の大使が、大学という中立的な土俵で、真剣に協調の場を探している姿を学生にも見せました。その後、学生もこのテーマについて勉強し意見を発表しましたし、その方々からコメントをいただきました。こうした活動を通じて価値ある世代間交流がもっとできたらいいと思います。
時代が要請する課題ごとに様々なプロジェクトを企画し、それに皆が参加して、我々の手で世の中をいい方向に変えることは可能です。
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カリキュラムについてお聞きします。日英二言語教育を取り入れられていますが、利点はさまざま挙げられると思います。ただその中でデメリットはないのでしょうか。
立命館アジア太平洋大学 学長 モンテカセム 氏 日英二言語教育では、1,2年次は入学時の基準言語(日本人学生であれば日本語)で授業を受けながら反対言語(日本人学生であれば英語)の学習に取り組み、3年次以降では日英両方で学べるようなカリキュラムになっています。
二言語教育のシステムによって、3,4年次ではもうお互いの言語を理解しているので、授業でも両言語を使用した理想的なものになります。ただ、1,2年次は自分の専門科目をそれぞれにとって有利な方の言語で受けるので、寮生活者以外は話す言語でグループ化してしまいます。それをなんとかしようと、言語の先生方が「言語Week」という企画を立ち上げました。その内容は必然的に「文化Week」になりました。春から秋の間に、授業・試験期間と夏休み期間以外は、毎週何らかの「言語Week」があります。昨日は「ベトナムWeek」の最終日、その前はインドネシア、マレーシア、アフリカ・・・といった具合です。
 感動したのは、授業時間外にもかなり勉強する学生が「言語Week」の準備のための時間を自ら進んで作り、自国以外の国出身のクラスメートと一緒に必死になって取り組んでいたことです。たとえばエストニアの学生がスリランカの学生のところに行って伝統舞踊を踊ったり、フィリピンの学生がベトナムを疑似旅行するわけです。「言語Week」では豊かな創造力を用いた面白いパフォーマンスや、マルチメディア的なビジュアルなどが合体して、すばらしいものができあがります。
 
はじめは日常的な運営の中で直面した問題を解決しようとして始まった試みが、学生間の友情形成や相互文化理解といった波及効果も生んでいるのですね。他にはどのような効果があるのでしょうか。
 この「言語Week」を通して、国家間の問題も真剣に考えるようになったのではないでしょうか。つい最近でも、中国と韓国と日本の間で、竹島や靖国、教科書などの問題が起きた際に、ブラジルやコロンビアの学生が、「こんなにも文化的に近く、経済統合もすべき三者がなぜこのようなくだらない喧嘩をするのか」といって会議をしました。会議の中身は「お互いに仲良くしましょう」という抽象的・精神論的なものではなく、具体的であり、教科書問題や領土問題の本質を理解しようとする素晴らしい企画でした。「言語Week」で異国の学生と共に達成感のある仕事をしたり、異文化を身近に感じることで、現代社会に生起する様々な問題を学生同士で出し合い、一人ひとりが自らに問う努力をする姿勢は、我々のミッションと共通するところです。
 

TOEFLテストは、今年の9月から(日本での導入は2006年以降)新しく変わり、読む・聴く・話す・書くの4技能が総合的に測られるようになります。日本人にとっては厳しいかもしれませんが、真の英語能力を身につける上で必要な試験となるのではないかと期待しています。APUの学生は英語において入学当初から優秀なのだと思われますが、学長は貴校の日本人学生の英語力についてどう思われますか?
 それは心配しています。厳しい評価かもしれないですが、日本人学生はもっと英語能力を伸ばすよう努力すべきです。正課外の活動ももちろん必要ですが、正課で努力をして基礎をしっかり身につけることが重要です。APUでは、二言語教育の他、英語を使ってより積極的に学部横断的な内容に取り組むよう、今年からクロスオーバー・アドヴァンスト・プログラムというインスティテュートを設けて、理工系の要素も取り入れたICT (Information & Communication Technology)、ツーリズム&ホスピタリティ、健康・環境・生命、国際戦略、言語文化の5つの分野を提供しています。
 

在学生と卒業生の方々へメッセージをお願いします。
 山の上に位置するAPUの学生は、毎日、授業時間外に留学生は平均4時間、日本人学生は3.5時間勉強しており、授業をさぼる学生はいません。熱心に学ぶ学生に充実感を与える環境を整えるのは私たちの責任です。私たちが学生に大きく育つ機会を提供するのです。故郷から遠いところにあっても立地条件の心配をすることはない、世界はあなた方の足元にあるのですから安心して下さい。
 また、在学中に社会で起こる諸問題を解決できる力を身につけて、神様の前でも誰の前でも胸をはって行動ができるように、良い人間として社会的な役割を果たし続けて欲しい。
立命館アジア太平洋大学 学長 モンテカセム 氏 今後、キャンパス内で、国際会議や学生参画型のサミットなど、学生が活躍できる機会が沢山あると思います。学生にはそこで積極的に基盤作りをしてもらいたい。語学の初期段階のイマージョン教育も、もっとインテンシブに展開すべきではないかとも考えています。そうして、このキャンパス内での様々な機会に触れて、多くのことを経験しながら、国際的な視野を身に付けて大きく成長していってほしいと思います。
 これからもさらに新しい考え方を提示して、本当に強い大学にしたいですね。今後は学生も、教職員も、必要な人たち全てがキャンパスに参加できるようなExtension Programを作りたいと思っています。特に、専門分野で有名な先生にも日本の事情を伝えるためには、このようなプログラムが必要です。さらには、こちらに誘致している企業の方々にも、Language Extension Programを提供できるようなカリキュラムの導入なども含めて考えていきたいと思います。
 
ありがとうございました。

(インタビュー:2005年6月17日 TOEFL事業部 部長 高田幸詩朗)
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