TOEFL Mail Magazine Vol.40

言葉の玉手箱
 

英語に限らず外国語を学習していると、言葉の世界の奥深さに気付かされます。古来の日本人は言霊(ことだま)と評して、言葉には霊が宿り、見えざる力を働かすのだと考えました。使い慣れた短いフレーズの中にもコミュニケーションを左右するほどの力があるのです。
毎回ご好評をいただいているこのコーナーでは、テンプル大学ジャパンの川手 ミヤジェイェフスカ 恩先生が、異文化間コミュニケーションにおける言葉の使い方の重要性に焦点をあて、興味深く解説してくださいます。言葉の世界の面白さをお楽しみください。

 
テンプル大学ジャパン教養学部 川手 ミヤジェイェフスカ 恩(めぐみ)先生
Dr.川手 ミヤジェイェフスカ 恩(めぐみ)
テンプル大学ジャパン教養学部
(Megumi Kawate-Mierzejewska, Ed.D, Temple University)
2000年より、ETS公認コンサルタントを務めてきた。
専門分野:中間言語語用論(Interlanguage Pragmatics)
 
 第18回:「。。。先生」が英語になると?(その1)

 今回は2回にわたって、英語話者が教師を呼ぶ時に使う呼称について考えてみたい。ここでいう、英語話者とは北米英語母語話者と日本人英語話者である。年配の日本人教師が10代の学生からファーストネームで呼ばれるのはどういうことなのだろうか。北米英語母語話者が教師を呼ぶ時、ファーストネームで呼ぶのはどのような状況にあるときなのだろうか。北米の大学に通っている日本人学生は、そこで教鞭をとっている日本人や英語母語話者を呼ぶ時、なぜ、英語母語話者による教師の呼び方と異なるのか。(当記事では便宜上、『松村たか子』と『ブライアン・スミス』という架空の名前を使います)。

 筆者がいつも感じていることの一つに、北米の大学に通っている日本人学生が、年配の日本人教師を呼ぶ時、また彼らが英語母語話者である教師を呼ぶ時、なぜ英語母語話者による呼び方とは異なるのかということである。例えば、北米の大学で教鞭をとっている『松村たか子』博士(年配の教授)は18−9歳の日本人女学生からは『Takako』、そして男子学生からは『Matsumura』と敬称なしで呼ばれているらしい。20歳以上の日本人学生からは、たまに英語では『Mrs. Takako』、英語でも日本語でも『Matsumura san』、そして、年配の学生の中には日本語を使う時は『たか子先生』と呼ぶ学生もいるらしいが、いずれにしても『松村先生』と呼ぶ学生はいないようだ。彼女によると、初めて自分の娘ほどの若い学生から『たか子』と呼ばれた時はさすがに違和感を感じたというが、彼女達はそれまでの異文化間教育や北米のテレビドラマ、映画などをとおして、英語ではいつでもファーストネームで呼び合うとでもいう誤った概念を身に付けてしまったのではなかろうかと解釈したという。また、『Matsumura』と呼称なしで呼ばれることについても、男子学生は照れくさいから名前は呼べないのだが、英語では呼び捨てにするのが適切であるという誤った概念を身につけているために使われるものであろうと解釈しているようだ。いずれにしても、いかにして適切な呼称の使い方を悟らせるかというのはまた別問題で、まだそのままにしてあるらしいが。。。
さて、それでは日本の大学に通う学生はというと、彼らからは日本語では『松村先生』、そして英語では『Mrs. Matsumura』とよばれているらしい。日本の大学に通う学生は教師との距離をおいていてポライトではあるが、英語母語話者による『Professor Matsumura』とか『Dr. Matsumura』とかいう敬称を使う学生は皆無のようだ。ちなみに、英語母語話者といえば、彼らは一律に『Professor Matsumura』とか『Dr. Matsumura』、そして日本語になると『松村先生』と呼んでいるらしい。

 スミス博士に関しても、日本人学生からは、『ブライアン』と呼ばれることが多いらしい。彼が一番印象に残っているのは、ある内気そうな日本人学生がはじめて彼を呼んだ時、『Excuse me, (pause) Brian…』と彼のファースト・ネームを使ったということである。スミス先生は『of course, she can call me Brian…』とはおっしゃっていましたが。。。ちなみに彼は、世界でも名の通った優秀な学者である。また、アメリカ人の学者が、彼のことを『Mr.。。。』と呼ぶ日本人学生に『I'm Dr.。。。』と何回もいったが、その日本人学生は『Mr.。。。』と言いつづけたので、博士は学生に『So, what degree do you have?』と聞き返していたというエピソードもある。博士にしてみれば、北米大学で使われる適切な敬称を日本人学生が知らないと考えて、親切に教えようとしたのだが、日本人学生は、「Dr.を鼻にかけているようで、感じの悪い先生だ」と思ったという。
次回は、英語母語話者たちによる教師の呼びかた、Dr.かProfessorかという問題、英語における一般的な呼称の使い方などにも焦点をあて、このトピックをしめくくる。

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