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7回:立教大学総長 押見輝男(おしみ・てるお)氏

本シリーズでは特色ある大学のトップの方に、大局的な視点から大学の運営方針、指導方針、授業の改善などについてインタビューさせていただいた内容をご紹介しています。
今回は、21世紀における「コラボレーション」に重きをおいて改革をすすめられている立教大学を取り上げ、押見 輝男総長にお話を伺いました。

>> 押見総長の略歴はこちら

■ 立教大学独自の方針について

 現在、わが国の大学は、国立大学の独立法人化やさまざまな規制緩和によって自由競争の時代に入ったと言われています。その中で、国立大学よりも私立大学が優れている点は大学の個性の面ではないでしょうか。私立大学の個性がどこから発生するかは、言うまでもなく「建学の理念・精神」で、本学の場合は「キリスト教に基づく人間教育」が建学の精神です。これを具体的に表現すると、「他者と"協働"して、人間性の向上や社会変革を目指して諸課題の解決に取り組める人材の育成」だと考えています。共に同じことをするという意味の「共同」ではなく、協力し、働きかけあって事をなすという意味の「協働=コラボレーション」です。

 現代人は他者に対して関心を持たなくなっています。お互いに境界を明確に引き、その線を踏み越えないようにする。自分の境界に入ってくるのは許さないし、自分も相手の境界に入ろうとしない。私はそういう世界を「擬似共生」もしくは「棲み分け的共存」と呼んでいます。現代社会の抱えている数々の大きな問題のベースにこの「擬似共生」があり、国際紛争や国際関係のみならず、学校における友人関係や親子関係にまで強くはびこっています。この問題を解決するためには、人同士がコラボレートすることが一番大事だと考えます。

 他者と協働するには「二つの重要な特性」がなければなりません。一つは「課題解決に必要な知識とスキル」を持っていること。この点は学部教育や大学院教育を充実・強化することで対応していきます。もう一つは、「自分の行動を自分でコントロールできる人間性」で、このことは特に強調したい点です。つまり自分の価値観や考えが他人にとってどうなのか、独り善がりの押しつけではないかと、自己点検できる内的な価値基準を持っているということで、私はこれを「しなやかな倫理」と呼んでいます。学生が他者と協働するためにこれら二つの特性を持てるように支援する教育、あるいは促進させる学習体験の場を積極的に提供したいというのが立教の基本的な姿勢です。

■ 英語教育改革について

 立教は1874年(明治7年)にアメリカの宣教師によって作られた学校で、当初は聖書のほかに英語を教えていました。英語に対する親近性は大変高く「英語の立教」と高く評価された時代もありましたが、他大学も英語教育に力を入れており、もう英語の立教と言ってはいられない状況になりました。その反省から、文法を学んだり文学作品を読むだけの従来の「学ぶ英語」から「使える英語」を目標として、1997年に英語教育の抜本的な改革を行いました。それが全学共通カリキュラムの言語教育です。発信型の「コミュニカティブ・アプローチ」と共に、環境問題や戦争問題など学生が生きている現代の問題を英語教育の内容に取り込み、関心を引き出していく「コンテンツ重視アプローチ」を採用しました。シラバス、テキスト、試験、評価基準を統一し、立教の学生であればどの学部に所属していても同一内容、同一水準の英語教育が受けられるようにしました。1年次に英語の授業を集中させ、コミュニケーション・スキルを高めたい学生のためのコミュニカティブコースと、異なる文化を翻訳ではなく直接知りたい学生のための言語文化コースに分け、関心にあわせて選択できます。さらに自分の英語能力を高めてみたい人のために、2年次以降は特別のインテンシブコースを設けて更なる英語のスキルアップのための授業も行っています。この単位を取得できれば、海外の大学・大学院での正規課程を支障なく受講できるようになります。TOEFL®テストは学生自身のコミュニケーション・スキルの自己評価基準として大変意味のあるものですし、本学ではTOEFL®スコアを留学指導をする際に留学先を選定する基準としても利用しています。

 2001年には、英語教育科目として「英語による日本研究科目」を導入しました。本学の外国人留学生(現在340名:正規297名、協定校からの受け入れ43名)と日本人学生が、日本の歴史や政治、社会などのテーマについて英語で議論するものです。これも一つのコラボレーションであり、立教の学生にとっては英語のスキルアップ、また留学生には日本人学生と接触して日本についてより深く知ることが出来る良い機会になっています。2002年からは本学、慶應義塾大学、韓国の延世(ヨンセ)大学の連携で3大学リーダーシップフォーラムを開始しました。これは、3大学の学生が夏休みの6日間、英語を共通語として共同生活をし、現代社会において必要とされるリーダーシップを養成するプログラムです。昨年は延世大学が主催し、立教と慶應の学生たちが韓国で延世大学の学生たちと共同生活の体験学習をしました。2回目の今夏は立教が主催し、「グローカルなリーダーシップ(グローカルとはGlobalLocalの造語)」をテーマに、延世から20人、慶應と立教がそれぞれ10人の合計40人が立教大学キャンパス及び清里で共同生活をしました。今回のテーマはグローバルな問題は実は自分の生活している地域にも同じ問題があり、ローカルな問題をグローバルな視野で解決していくためのリーダーを養いたいというものです。このプログラムは、今後より充実させて範囲を広げるつもりです。

 実際、改革の成果は数字になってあらわれています。私立大学連盟が4年ごとに実施する学生生活実態調査に「外国語の力がついたと実感できるか」という質問項目があります。1998年の調査では「実感できる」と答えた学生は加盟校全体で22.6%、立教では27.9%でした。2002年の調査では、加盟校全体で23.3%とほとんど横ばいでしたが、立教は、33.7%とかなり大幅な改善が見られました。この統計からも改革は間違いなく成果をあげており、今後この方向性をさらに強化していきます。

■ 貴校における今後の方針について

 立教では20024月に3学科と3独立研究科を新設し、20044月に法科大学院、2006年には2つの新学部を設置予定で、現在準備作業に取り組んでいます。このうち法科大学院では、私たちが日常生活で遭遇する法律関連の問題を親身になって取り組む、町の総合医のような市民法曹を育成することを理念としています。特定の分野だけで重宝がられる人間ではなく、専門的知識とスキルを持ちながら幅広く活躍できる人材を育てることを目指しており、「スペシャリストの中のジェネラリストを育てる」という表現がまさに当てはまります。

 また、こころの時代といわれる21世紀にあって、2006年に開設予定の新学部の一つは、心理系の学部です。ただ単に既存の心理学科を充実させるだけではなく、これまでの研究教育成果をダンスやヨガ、演劇など人間の全身的な運動と関係付けたり、写真、映画、コンピュータグラフィックスといった機械映像を人の心の表現と捉え、従来は芸術とくくられていたものを心理系の学部の中で人間の行為として捉え直します。もう1つは、世界がグローバル化し国際ビジネスが重要な点から、国際経営系の学部を池袋キャンパスに設置する予定です。今、国際ビジネスに対応するには、その人がどんな個性的な体験をし、どんな価値観を持ったかを英語で表現できる力が求められています。この学部では、ビジネス英語を徹底的に鍛え、国際社会で望まれる人材育成を目指します。いずれの新学部も新しい実践知に対する立教らしい果敢な取り組みです。

■ 卒業生へのメッセージ

 立教大学を含め、今、わが国の大学はそれぞれの個性を鮮明にし、その面で社会的評価を高めることが求められています。大学の個性とは、教育研究のあり方や具体的成果だけではなく、大学全体の雰囲気やその雰囲気を体現した学生、教職員、卒業生の振舞い、生き方に反映されるものです。その意味で卒業生の存在が大学の評価を大きく左右するともいえます。立教の卒業生に共通する特徴は、「他人(ひと)と協働して課題を解決してゆける」という、まさに現代社会がもっとも必要としている「人間性」です。"ひとにやさしい"、"独り善がりでない"、"ひとを活かすのがうまい"、"柔軟な倫理観を持つ"、などの評価はその証明です。立教大学で培われたこの優れた特性を発揮して活躍されることを期待しています。今後は、生涯学習、リカレント教育、産学連携など、卒業生の方々が再び立教の教育研究を活用される機会がますます増えていくと思います。立教大学は皆さんの要望に十分応えられる態勢を整えつつあります。また、大学としては、皆さんの後輩にあたる在学生の人間教育においても、卒業生の方々の協力を必要としています。在学生と卒業生の協働が、課外活動だけでなく専門教育の面でも発展するようにしていきたいと考えています。大学と卒業生がスクラムを組んで立教らしさを追求していきましょう。

(インタビュー:TOEFL事業部長 高田幸詩朗)

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押見輝夫(おしみ・てるお)氏 略歴
■ 現住所:
神奈川県横浜市
■ 生年:
1944318
■ 学歴:
19693 立教大学文学部心理学科卒業
19713 同大学大学院同研究科同課程修了
19743 同大学大学院文学研究科同課程所定単位取得退学
■ 職歴:
19804 立教大学文学部講師
19814 同大学同学部助教授
19884 同大学同学部教授
19914月〜 同大学文学部心理学科長
19934月〜 同大学文学研究科心理学専攻博士課程前期課程主任
兼後期課程主任
19945月〜 同大学文学部長兼文学研究科委員長
20025月〜現在 立教大学総長 立教学院常務理事 立教学院評議員
20026月〜現在 社団法人日本私立大学連盟常務理事
■ 研究・活動歴:
専攻分野: 社会心理学
所属学会: 日本心理学会、日本社会心理学会、日本グループ・ダイナミックス学会など
主たる著書・論文: 「自己意識特性と同調行動-同調動機と課題関心度の調節効果」「心理学研究」71巻 2000
・「自己意識尺度オリジナル版の評価」 立教大学心理学科研究年報41号 1999
・「自己の社会心理」 誠信書房 1998
・「自分を見つめる自分-自己フォーカスの社会心理学」 サイエンス社 1992
・「『自己の姿への注目』の段階」「『自己過程』の社会心理学」 東京大学出版会 1990

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