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今回のインタビューは、大阪府立和泉高等学校 校長である中原 徹 先生です。2010年に全国最年少の校長として大阪府立和泉高等学校の校長に就任された中原先生。日本の未来を見据えた教育への熱き思いなど、民間人校長として取り組まれている教育改革についてお話を伺います。

中原 徹 校長

中原 徹

大阪府立和泉高等学校 校長

  • 1970年4月26日 神奈川県横浜市生まれ 41歳
  • 早稲田大学法学部卒/ミシガン大学ロースクール卒
  • 東京永和法律事務所で弁護士を務めた後渡米。
  • Pillsbury Winthrop Shaw Pittman 法律事務所(ロサンゼルス事務所)で10年間勤務。
  • 2009年 大阪府教育委員会公募の民間人校長に応募し採用となる。
(参考)
[Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP(ピルズベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマン法律事務所)] 東京、ロンドン、シドニー、上海を含む海外ならびに全米の主要都市に15のオフィスを構え、約800名の弁護士を擁する世界規模の総合法律事務所

大阪府立和泉高等学校 校長 中原 徹先生
民間人校長の新たな教育改革について その1

渡米経験で見えてきた日本の姿、そして今後の日本のために出来ること

編集者:
それでは最初に今回、大阪府での民間校長に就任なされた経緯も含め、中原先生のご経歴を伺います。
中原校長:
和泉高校の校長に就任にして約1年半になりました。これまでの経歴ですが、まず約2年間日本で弁護士をしている中で、日本の国際弁護士がアメリカに追従している現実を見るところから始まります。日本の中で20年30年とキャリアを積んでも常にその先にアメリカの弁護士、要するにアメリカという国が常に前にあるわけです。だから、アメリカで実際に働いているアメリカ人を含む世界の人たちがどういうレベルなのか、何を考えているのか見ないことには始まらないなぁということで日本の弁護士事務所を辞めました。そして無職になってTOEFLを受けて、ミシガン大学のロースクールへ行きました。その後、アメリカの弁護士事務所で約10年働いていたんです。それで40歳近くになって人生、体力的にも明らかに折り返し地点を過ぎていましたから、元気なうちに自分を育ててくれた国に恩返しをしなきゃいけないだろうと感じました。でもこういう思いは日本にいたときは全く考えなかったですね。
編集者:
日本にいたとき、とは日本で弁護士をされていらっしゃった時ということですね。
中原校長:
はい、そのときは自分のことばかりでした。
編集者:
弁護士になられて最初の2年間、日本の法律事務所でお仕事されていた時は、あまり意識はされていなかったということでしょうか?
中原校長:
はい。ところが、アメリカでもともとやりたかったことが実現できたこともあって、ずっと走ってきたのが10年経ってちょっと落ち着いて立ち止まったようなところがありました。自分のキャリアを活かして何かお役に立てることがないかと考えていたのですが、その時、教育というのは時間がかかるかもしれないけれども、動き出したらものすごい力になると思ったんです。教育は国の礎ですからね。そういう意味で、「教育だ」という思いを強めていました。そしてロサンゼルスの現地の補習校である「あさひ学園」でボランティアとして学校の理事長を務めました。この学校は駐在員の子供達が日本に帰国したときに困らないように、土曜日に日本語で日本のカリキュラムを勉強する学校です。
編集者:
その後、帰国されて大阪府の民間人校長の募集に応募なさったわけですが、その理由はどのようなものだったのでしょう?
中原校長:
大阪府の橋下知事(インタビュー当時)と偶然大学時代に体育の授業が一緒だったんです。これも偶然ですが、彼とはたまたま司法試験も同じ年に受かりました。弁護士になった後は、それほど頻繁に顔をあわせていたわけではなかったのですが、2、3年に一度ほど会っていました。お互いに何をしているかを話して、お互い頑張っているので負けられないな、といったたわいもない会話が中心でした。彼が知事になった後に大阪で民間人校長の募集があるということを聞きました。教育に関心があったときにそんな話を聞き、応募しました。自分がこれまで日本やアメリカで仕事をしてきて、弁護士としてある程度の結果が出せたので、一定の期間日本に恩返しがしたい、関心のある分野である教育について何か貢献したい、そんな思いからですね。
編集者:
大阪の民間校長に応募されたわけですが、中原先生は大阪に地縁をおもちだったのでしょうか?
中原校長:
僕は神奈川県横浜市の出身なので、大阪には地縁は全くなかったです。
編集者:
日本での教育現場のご経験についてはいかがですか?
中原校長:
そちらもないですね。
編集者:
そうしますと、民間人校長を募集という話をお聞きになって、ご自身でやってみたい、と思われた理由はどのあたりにありますでしょうか?
中原校長:
そうですね、アメリカで経験した日本人学校の理事長というのは、どちらかというと経営一本なんです。ところが日本の高校では、校長は経営よりも教育内容の方に入り込みます。そして、学校現場にいれば、これから日本を支えていく若者にも直接触れられるというメリットがありますから、これはやってみたいと思いましたね。比較して良いかどうかわかりませんが、例えば日本で総理大臣になったとしても、極端な話、学校のカリキュラムひとつ変えられない硬直さが見える中で、小さい単位ではあるが現場なら「変える」ことができると思ったのです。
編集者:
そうですね。日本は大統領制ではないですから、直接指示を出すことが出来ないこともありますね。
中原校長:
ですので、今回校長になって最初に取組んだことのひとつに、公立高校では実施が難しいといわれたTOEFLの学習を授業に取り入れました。来年からは(全員ではありませんが)1年生からTOEFLの勉強をやってもらいます。だからいままでの英語の教科書は実際にはあまり使わないんですよ。

編集者:
高校で一般に使われている教科書ということですね。
中原校長:
ええ。生徒にも「君らこの教科書やってて、英語が使えるようになると思ってやってる?」と聞くと、生徒は「思っていない」と言いました。保護者の方に伺っても「思いません。私達もしゃべれないですから」とおっしゃっていました。更に言えば、先生も半ばそう思ってるわけですよ。これって、もはやコメディに近い状態ですよね。そういう教科書を使った勉強を、小学校の2年間を足して大学卒業までに合計12年間やるんです。それでたとえ難関大学に入っても英語が使えないんだったら、これまでとは違うことをやるしかないじゃないかと考えました。そんなことを思い切って現場でやれるのが、校長のポジションなので、やりがいのあるポジションなんです。
編集者:
実際にTOEFLテストの学習を授業に導入されたわけですが、TOEFLはそれまで日本の高校の先生方も取組んだこともないものであったでしょうし、生徒さん自身もあまり聞いたことがなかったと思います。そういうところで、現場の先生方のリアクションはマイナスの方に振れたんじゃないでしょうか?
中原校長:
そうですね。最初は生徒や保護者の方々の方が先に賛成でした。「いやぁ、だって今までと同じような英語を勉強してもどうせ使えないでしょう。だったら新しいことに挑戦しましょう」という話がでていましたので。
編集者:
英語の指導要領は何年かごとに変わったりしていますが、大きくみれば変わっていませんね。
中原校長:
その通りです。生徒や保護者の方々は、「もしTOEFLを勉強して日本の大学受験にも対応できるならば、それならアメリカで学んで仕事をしてきた人(中原)が役に立ちますと言うこと(TOEFL)をやったほうがいい」と、そういうふうに応援してくれる方が多かったです。先生の中にも「よしやってみよう」という人と、得体の知れないものに対する不安感を持つ人に分かれました。TOEFL導入反対の先生達には、「TOEFLは難しすぎる。うちの生徒には負担が大きすぎて酷である」という人達もいて、それが本当に親心からなのか、それともやりたくなかったのか、教える自信がなかったのか、理由は確定できませんが、色々な先生がいて最初の反対は強かったですね。でも絶対にTOEFLの内容を勉強していった方がいいと僕は確信しています。冷静に考えても、マイナスはないんです。今僕が対象にしているのは高校生ですが、世界の色々な国でTOEFLを留学試験や進学のために受けている学生と年齢が一緒なんです。つまり同年代での英語力の国際比較ができ、ライバル達の英語力をモニターできます。TOEFLテストで高いスコアが出るということは、アメリカの大学が、「あなたはうちの大学で授業について行けますよ。日常生活や友達づきあいも含め、アメリカの大学生として最低限やって行けますよ」と言っているということを意味しますから、こんなに分かり易い英語力の基準はないと思うんです。世界中で英語力においてビリを独走している日本人から「あなたは英語力がある」と言われるよりもよっぽどいい。
TOEFLで高いスコアを出せば留学の切符も手に入ります。また、TOEFLがiBTになって「話す」という技能が要求されていますから、「日本人は話すことが下手だ」という課題も少しずつ克服できるわけです。そして一番大事な入試の時期(高校3年生の後半)に、アメリカの大学へいきなり行くのはちょっとリスクがあるから、日本の大学に行きたいと考える人にとっても、TOEFLの内容は入試で出題される内容を含んでいますからTOEFLができれば大丈夫です。英語の先生で、深く英語を研究されている先生方に聞くと、皆同じ答えですけれども「TOEFL iBTで80点が取れたら入試なんて簡単、センター試験なんて冗談みたいになりますよ」とおっしゃるんです。TOEFLが難しいのはわかりますが、いま挑戦しないと本当に世界から取り残されます。日本の大学に入って、それからアメリカの大学院に行きたいと思っても、TOEFLができなければ道は開けないんです。しっかり地に足をつけた骨太の英語力という意味では、TOEFLだと思うんです。ですから、高校生にはぴったりだと思いますし、学習するデメリットがないんですね。大学入試にしても、僕は、東大の法学部が、「英語の試験については過去2年間に受けたTOEFLのスコアを出せばいい(わざわざ入試会場に改めて英語の試験を受けに来る必要はない)」と英語の入試制度を変えたら、日本の英語教育は5年以内に劇的に変化すると思うんです。そんなふうに思われませんか?
編集者:
そうですね、まったく変わると思います。
中原校長:
例えば、日本は、理数系の分野は頑張っていると言われています。物作りでも良い技術や良い発明はあるんです。でも、それを世界に発表したり広める人達がいないんです。
編集者:
おっしゃるとおりですね。良い研究はたくさんあると思いますが、それを英語で学会誌に投稿して、海外の学会で発表して、いろんな人から批判も受けて、それでもこれはこうだと英語で言える、あるいは言って評価をしてもらうというふうには、現状はなっていないのではないでしょうか。
中原校長:
そうです。韓国のイ・ミョンバク大統領は、一昨年アラブの原子力発電所の入札で、最後にガッと出てきて、かっさらっていきましたね。フランスチームと日米の連合チームを差し置いて、自国の技術を売り込むことが出来たわけです。技術を売り込んでいく、説得させてしまうということについても、学者が学会で発表する場面のみならず、ビジネスの分野でも、日本は、もう遅れを取ってしまっているわけです。自分達の考え方は正しいのだから、日本で発表しただけでは本当にもったいない。一刻も早く海外に広めたいと思えば、書く、話す英語を勉強しなければいけません。グローバルな企業はそういう人材を採用しようとするわけです。そういう意味でも、日本人の気概の無さを感じますよね。
編集者:
そういう人材を育成するには、やはり中高の教育の影響は大きいですね。
中原校長:
その通りです。
編集者:
さて、少し前のお話になりますが、アメリカの大学に入るため、TOEFLを受けられて、いらっしゃいますね?
中原校長:
僕が受験したのは、TOEFL PBTです。630点代で留学したと思います。
編集者:
社会人になっていらっしゃったと思うのですが、勉強はご自身でされたのでしょうか?
中原校長:
弁護士をしながら 空き時間を見つけて3か月勉強しました。最初は、過去問も何も触れずにまず受験してみました。就職していましたから、受験費用を出す余裕があったので、取りあえず受けたら最初は580点代だったと思います。ロースクール入学には600点必要だったので、ちょっと足りないわけです。そこで過去問の問題集をやりながら、解法テクニックを習うため予備校の模擬試験や解説を1、2回受けました。そうしたら、少しずつ上がって、何回か受けているうちに最後には630点くらい取りました。
編集者:
それでミシガン大学に行かれたわけですね?
中原校長:
はい。
編集者:
アメリカの大学院は、日本の学習環境とまったく異なります。特にロースクールは競争も激しいと伺っていますが、実際にはいかがでしたでしょうか?
中原校長:
そうですね、まず目的がなく来ている人はいません。明確に目的を持っている人が多い。それと自分の意見を言う、意見が違うことをまったく恐れないですよね。意見が違って当たり前という感覚です。人種も宗教もさまざまで、意見が違ってまず当たり前。違うなかで、どうやって自分の意見を他人に説得していくか、というスタンスです。「意見と人格は常に別物」、 「意見が違うからあいつは悪いやつだとは思わない」という前提があるから思い切ってお互いに意見を出し合えます。また、自己責任というか我欲の強さというか、「自分のことは自分で責任を取る。その代わりはっきり自己主張はさせてもらう」という傾向も強く感じました。いわゆる他人依存の甘えがないわけです。そういう「甘えの無さ」と「自分の意見を出していく」という点は印象的でしたね。ですから、まだこれから未来のある10代の人達には、そういう思いを少しでも持ってもらって、そして日本の中でもそういう意識を醸成していかないと、すぐに日本はアジアの中でも中堅から下位に落ちかねないのではないかという危機感があります。

–「大阪府立和泉高等学校 校長 中原徹先生
民間人校長の新たな教育改革について その2」–全2回
103号– 「渡和泉高等学校 校長としての新たな教育改革について」

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