〜第9回:言葉に付随する意味(その2) "Excuse Me?"
英語に限らず外国語を学習していると、言葉の世界の奥深さに気付かされます。古来の日本人は言霊(ことだま)と評して、言葉には霊が宿り、見えざる力を働かすのだと考えました。使い慣れた短いフレーズの中にもコミュニケーションを左右するほどの力があるのです。
ご好評いただいている連載「言葉の玉手箱」では、Temple
University Japan 大学附属英語研修課程 助教授 川手-ミヤジェイェフスカ 恩先生が、異文化間コミュニケーションにおける言葉の使い方の重要性に焦点をあて、興味深く解説してくださいます。言葉の世界の面白さをお楽しみください。

テンプル大学ジャパンキャンパスの川手 ミヤジェイェフスカ 恩先生

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前回に引き続き今回も同じテーマなのだが、英語を話していると言葉に対する感覚が伴わないことも多いので、後で日本語で考えてみて「あんなこと、言ったんだ」などとまごついてしまうこともあるようだ。前回の"I don't think so."の場合は母語である日本語からの転移であるかもしれないというのも理由の一つとして考えられたわけだが、今回は母語ではそんな表現は使わないのに英語だから言えてしまったという表現のひとつに焦点をあててみる。

これは、海外のある大学での出来事であるが、何年か前に某大学の図書館でマイクロ・フィッシュを見ていた時、その近くにあったコピー機を使っていた若い日本人女子学生をみかけた。使い始めてから何分もしないうちに、たまたまコピー機が詰まってしまったらしく、彼女の口からは、静まりかえった図書館内で「S語(Sのつくタブー語)」が飛び出した。そうしたら、その場に居合わせた彼女の教官らしい年配の女性がとっさに"Excuse me?"と聞き返した。その学生は何の事かわからないという表情で、コピー機が詰まってしまったのでどうすればいいのかをきいていた。その女性教官はまず、彼女の最初の一言である「S語」を批難し、そういう表現は適切でないということを彼女に教えていた。この学生にしてみれば、挨拶をするのと同じような感覚で使ったに違いないのだが。
 
ヨーロッパに住んでいた時も、英語がかなり堪能な男子学生がこの表現を使っているのに出くわしたことがある。この時もやはり「S語」であった。友人や学生たちとフルブライトのオフィスを尋ねた時、たまたま事務職員が代休をとっていてその事務所はしまっていた。その時、先頭を歩いていた優秀な男子学生の口から「S語」が飛び出したわけである。そこにいあわせた英語母語話者は顔を見合わせて「そういうの使わない方がいいんじゃない?」というような態度をとっていた。

もちろん、英語母語話者の間でも、深い意味(それらの持つ文字通りの意味)もなく、苛立ち、驚き、怒りなどの感情を何らかの理由で必要以上に伝える為に、このようなタブー語が使われることもあるようだが、その適切性の判断は母語話者の持つ直感によって支配されているように思う。つまり、これらの表現は母語話者だけが適切に使える表現(仮にこれらが使える適切な状況などというものがあるとすれば)なのではないだろうか。もちろん、使わないにこしたことはないわけだが・・・。

 ちなみに、このようなタブー語には「F語」や「C語」もあるわけだが、英語を母語としない話者からは「S語」が飛び出すことの方が多いような気がする。これは、発音の関係かもしれないが、すくなくとも日本語母語話者にとっては「S語」の方が「F語」より発音しやすいのだろう。いずれにしても、このような表現は意識してでも、使わないほうがいいように思える。

 
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