濱本昂さん

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気象情報やスマートフォンの様々なアプリで使われる位置情報、それらは地球の周りを回る人工衛星から私たちの元へ届けられています。地球の周りを飛ぶ衛星の数は3500基以上と言われ、その中には日常生活の中の身近な目的で利用されるものの他、地球を観測し様々な課題を解決するために作られた衛星があります。日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA) が衛星から送られるデータを元に、他国と連携して課題解決のために取り組んでいます。今回のインタビューは衛星が観測する地球のデータを元に欧米、アジアと世界を舞台に活躍するJAXA研究開発員の矢部志津さんと濱本昂さんのお二人にお話しを伺いました。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)

第一宇宙技術部門 衛星利用運用センター 主任研究開発員
矢部 志津さん(写真左)

地球観測研究センター 研究開発員 
濱本 昂さん(写真右)

地球を見守る衛星

何をきっかけに宇宙に興味を持ち、JAXAのお仕事に就かれたのでしょうか?

矢部さん:高校生の時に、毛利衛さんがスペースシャトルで宇宙に行ったのを見たのがきっかけでした。一旦は、好きだった生物学の方へ進んだのですが、就職の時に縁があってJAXAに入らせていただきました。

濱本さん:私はもともと宇宙好きだったわけではなく、大学では地球環境全般を研究していました。地質や火山、海洋や気象など幅広く学んでおり、偶然研究テーマの一つが惑星の気象研究でした。地球だけでなく他の惑星の面白い自然環境や不思議な現象をもっと知りたいという思いで研究をしているうちに宇宙を仕事にしたいと思いはじめ、その流れで今の仕事に就きました。

現在はどのような研究・開発を担当されているのでしょうか?

矢部さん:衛星と言うと、気象衛星ひまわりやGPSなどが有名だと思うのですが、暮らしに密着したもの以外にも、これから先に皆さんの生活に役立てられる可能性のある衛星をJAXAが研究開発して打ち上げています。我々の仕事は、そのような地球を見守る衛星を扱っています。例えば、地球で降っている雨の様子を見て洪水警報を出したり、熱帯雨林など雲がかかっているような場所でもレーダーを使って森の面積が減っているか、増えているかなどを観測したりという利用ができる衛星などがあります。私の仕事は、ひとことで言うと、JAXAの衛星を他国に対して使ってみませんかという営業活動をすることです。主に欧米地域との枠組みで動いています。

濱本さん:私も基本的には同じで、地球観測衛星を社会に役立てるために防災や農業、環境監視などの分野で衛星データを活用した課題解決の方法を各国と共同で研究・開発しています。私が担当しているのは東南アジアが中心なのですが、課題を抱えている人々にただデータを渡すだけでは使ってもらえないので、各国の課題に合わせて使える形にデータを加工したり、使い方を教えたりします。実際に、現地の人とソフトウェアを一緒に開発して現地のニーズに合った使い方を一緒に研究することもあります。また、日本の大学の先生に来ていただき、現地の人たちにコンタクトして、「こういった研究を一緒にやりませんか」と呼びかけ、アジア各国を回ってプロジェクトの立上げもやっています。様々なアジアの国々と一つ一つのプロジェクト単位で共同研究を行っています。

矢部さん:私も以前はアジアの仕事を担当していましたが、現在は、他に衛星を持っているNASAやヨーロッパ宇宙機関などとお互いに補い合ったり情報交換をしたりして、より効率的に地球のために役立てていくという枠組みの活動を担当しています。同じ部署の中では、COP(*)で決定された項目に対して、各国が測定した温暖化ガスの排出量などが本当に合っているかというのをチェックするために、衛星を使って二酸化炭素が実際に出ている量を測るという合意を作ろうとして動いている研究開発員もいます。

(*)COP:締約国会議/Conference of Parties。国際条約の加盟国が物事を決定するための最高決定機関。よく聞かれるCOPは気候変動枠組条約のもの。

 

 

具体的にはどのような国へ行くのでしょうか?

濱本さん:ベトナム、タイ、カンボジア、ミャンマー、インドネシア、マレーシア、スリランカ、バングラデシュなど、東南アジアの地域は一通り行きました。東南アジアではむしろ行っていない国を挙げた方が早いくらいです。 平均して月一回は行っていると思います。

矢部さん:去年、社内の海外研修でイギリスに留学させていただいていました。今年は4月にイタリアに出張してきて、来月にイギリス、再来月はオーストラリアに行く予定です。(濱本さんに向けて)お腹壊さないんですか?

濱本さん:東南アジアであまりお腹を壊したことはないです。胃が慣れてしまったのかも(笑)

国際共同開発は双方にメリットを生む

衛星を使ったプロジェクトを共同で行うことでどんなメリットがあるのでしょうか?

濱本さん:限られた予算の中で共同ミッションとして衛星を作るというのは非常にメリットが大きいです。衛星ひとつを全部単独で作るのではなく分担することで開発費の負担も減り、相互の知見も共有できるので衛星を作る側としてはメリットがあります。ひとつの例として、GPM(*)というJAXAとNASA、その他の国際機関との共同ミッションがあります。その中で、JAXAとNASAがそれぞれ開発した雨を観測する二つのセンサーをNASAが開発した主衛星本体に搭載しました。JAXAでは、その衛星単体で取れるデータを基準として、他の観測衛星のデータを組み合わせて全世界の雨の準リアルタイムマップを作っています。10基以上の衛星のデータを組み合わせてほぼリアルタイムで雨の情報を世界中で共有できるというのは、一か国だけではなく共同ミッションがあったからこそ作れたものだと思います。

日本は雨量計やレーダーなど地上の観測網が非常に充実しているのですが、東南アジアの国々ではまだ地上のインフラが不十分な地域もあります。そういった国々では衛星を活用する余地がまだまだあります。例えば衛星データを使って洪水を予測するなど、衛星を上手く使うことで地上にたくさんのインフラを作るためのお金をかけずにすみます。一方で衛星データを提供する側としてはデータ利用の研究を進めることができます。共同ミッションは衛星を活用した国際貢献になると共に、JAXAにとっても技術開発の場が得られるというメリットがあります。

(*)GPM:全球降水観測計画。JAXAは、主衛星の打ち上げと、情報通信研究機構(NICT)と協力して主衛星に搭載されるDPR(二周波降水レーダ)の開発を担当。

 

矢部さん:私が担当している仕事の中でも、森を観測する衛星は色々な国が持っていて、森を観測する手順を共同で文書にまとめて、その文書を国際的な教科書にしようという活動があります。その文書は1か国だけで作っても世界に対してあまりインパクトがないので、国際協力の中で各国が参加して、国際的な教科書として広く使えるものだとアピールすることができるのがメリットだと感じています。

文化や考え方の違いで足並みをそろえるのが難しい時はありますか?

矢部さん:仕事のやり方が違いますね。例えば、ヨーロッパと日本の比較で言うと、ヨーロッパの人たちは最初に協力の枠組みを作ることを重視して、中身はその次という傾向があります。ヨーロッパと日本でこのように協力することにしました、と外部に対して発表できるような枠組みを先に作りたいという思いがあるように感じます。日本側は逆に、農業についてなのか、洪水対策についてなのか、具体的にどのような協力をしたいのかというのを優先して考えたい思いがあります。そこは本当に仕事のやり方の違いなので、歩み寄るしかありません。

濱本さん:東南アジアはどちらかというと日本に似ていて、枠組みよりは具体的なメリットが何かを考えて個々のプロジェクトを進めるということが多いです。ただ、宗教的な背景を踏まえて仕事の進め方やペースを合わせないといけないこともあります。ミーティングを設定するにしても、宗教上の祝日に当たったりすると向こうではその日はできないと言ってきますし、そこで無理に進めようとしてもうまく仕事が進みません。中華圏の旧正月やイスラム教のラマダンなど毎年日にちが変わるものは事前に調べたりして、彼らとどうやって仕事を回していけるのか考慮してやりくりしていくことが多いですね。お互いを知って一番良い結果が出るように仕事を回していくのがいいと思います。


国際的な連携の枠組みの中で、日本はどういった立場に立っているのでしょうか?

濱本さん:アジアの国々に対しては、これまでは日本が技術を教えたりすることが多かったのですが、その関係は変わりつつあると感じています。アジアの国々でも最近は衛星を作りたい、技術をもっと習得したいという思いがどんどん高まっているので、案件によっては彼ら自身からもノウハウを提供して、一緒に研究の成果を出していく事例も増えてきています。それによってコミュニケーションの取り方も変わり、一方的に教えるだけではなく、相手が言ってきた要求を受け入れたり調整したりする必要が出てくると最近特に感じています。

矢部さん:欧米と日本の間では対等なパートナーという関係です。各々衛星を持っていて、比べてみるとお互いに優れている点が違うので、補い合うことができればいいと思います。

宇宙開発において平和的な協力関係を今後も保っていくには何が大切でしょうか?

矢部さん:以前は宇宙ステーションに関わる部署にいたのですが、違う国の宇宙飛行士たちが同じ環境で暮らし、それを支える地上スタッフの人たちも参加国同士で協力をして一緒に仕事をするので、共同すること自体が国際関係上大事だと思いました。宇宙ステーションが無かったら全く交流が無かったであろう人々が一致団結して協力をしているというのは、国同士の関係を作るうえでも大切なものだと思います。

濱本さん:最先端の技術を扱う仕事でも相手の文化や背景が影響するので、パートナーの国の文化やこれまでの日本との関係性を知るのは非常に重要だと考えています。昔のインターネットが無い時代であれば他の国のことを勉強するのはハードルが高かったとかもしれませんが、幸い今の時代は英語でどの国の情報も出ていて調べられるので、いい時代だと思います。

 

 

後編では、お二人の海外体験の思い出や英語との付き合い方などについてのお話しをご紹介します。後編はCIEEのもう一つのWEBマガジンである「TOEFL Web Magazine」に掲載していますので、合わせてお読みください!

ANAグランドスタッフ 宇宙航空研究開発機構(JAXA)


2003年に宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)の3機関が統合して誕生した。日本政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的実施機関として同分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行う。「宇宙と空を活かし、安全で豊かな社会を実現する」ことを目指す。2015年4月に国立研究開発法人となる。

JAXA WEBサイト


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